オオイチモンジシマゲンゴロウ(長いので通称モンジ)は黒漆に金箔斑紋が入る美麗種。林床の水たまりなどの不安定な水域を好むためか幼虫が9日から2週で上陸するなど、ゲンゴロウ界最速の成長速度を誇ります。繁殖に成功し20匹程度の新成虫を得られたので、その飼育方法をまとめました。比較的多産ですが餌が少ないと脱皮失敗が増えるなど、幼虫飼育にも癖があります。
モンジ幼虫飼育については、まとまった情報が少ないため、”うちではこのパターンでうまく行っている”という情報として共有します。
オオイチモンジシマゲンゴロウの特徴
オオイチモンジシマゲンゴロウ(通称モンジ)は、体長15mm強の中型ゲンゴロウ。頭部から前胸は黄褐色、上翅は黒地に黄褐色の螺鈿斑紋が入る美麗種です。
近縁種にシマゲンゴロウやリュウキュウオオイチモンジシマゲンゴロウがいて、シマゲンゴロウは各地で急減しているものの、リュウキュウオオイチモンジシマゲンゴロウは比較的現地個体数多いように聞いています。
モンジの分布は近畿と関東〜東北にかけてで、平野から低山地の林床の水たまりなどの不安定な水域を好み、各地で減少傾向です。開発や農薬の影響にくわえ、生息地の孤立化が進んでいると考えられます。国のレッドリストでは絶滅危惧IB類で、2023年から種の保存法「特定第二種」として保護されます(※趣味の飼育は規制対象外)。
モンジ成虫飼育のポイント
モンジ成虫の飼育は、ゲンゴロウ飼育全般と同様で構いません。ただし、いくつか注意点があります。
モンジは吸盤が強力で、オスが容器の壁に張り付いて溺死することがあります。数週使っている容器でも起きることがあり、なかなか対策困難です。飼い始めた所で溺死はショックですから、最低限、新しい容器での飼育は避けた方がよいでしょう。
次に、比較的カジュアルに飛ぶため蓋は必須で、ちょっとした隙間から脱走することも。飛ぶ回数が多いため、隙間にたどり着いてしまうのでしょう。
水質については、比較的シビアな印象。寿命は1年以上あるはずですが、飼っているとポツポツ死亡します。これは旧成虫の寿命だった可能性も考えられます。
ゲンゴロウ界最速の成長速度がもたらすモンジ幼虫飼育のコツ
モンジ幼虫は、成長が早いことで有名。従来、2週程度で上陸とされてきましたが、2022年に出たふれ昆渡辺さんらの論文で、平均9日で上陸とゲンゴロウ科幼虫の成長速度としては最速であることがわかりました。従来最速とされていたハイイロゲンゴロウ(Eretes sticticus)同様、失われやすい不安定な水域を好む種としての特徴と考えられます。
そして、精神的にはもう慣れましたが、モンジ幼虫はうまくいくまで多産多死で、結構凹みます。
26℃で飼育した結果、卵および1~3齢幼虫の各成育期間、幼虫が上陸後に蛹を経て新成虫が蛹室から脱出するまでの期間などが明らかになりました。今回飼育した26℃における卵期間は3日でした。全幼虫期間は7~11日(平均9日)であり、環境省版レッドデータブックの記述(14日)よりも短いことがわかりました。ゲンゴロウ科の中で最も幼虫期間が短いとされていたEretes sticticusという種の全幼虫期間は9日であることから、オオイチモンジシマゲンゴロウは、これまで報告されているゲンゴロウ科の中で幼虫期間が最も短い種であると考えられました。
絶滅危惧種オオイチモンジシマゲンゴロウの未成熟期の成育期間を飼育により解明 – 石川県ふれあい昆虫館
モンジの産卵環境
溺死等でオスを失い、オス1メス 3と累代が危ぶまれたことから、冬季の繁殖に挑戦。11月頃から25度程度に保温した所、断続的に幼虫の孵化を確認。上陸済のものと合わせ20匹程度の新成虫を得られる見込みです。
モンジは比較的多産で、数匹の親から15匹以上の幼虫が出現する日もあります。上手な人なら100匹超えも夢ではありません。
卵については、渡辺さんらの論文では水草の表面にくわえ、流木やコーキングにも産卵するとしています。私の環境では卵は目視できていませんが、ホテイアオイやサンショウモを投入しました。
モンジ幼虫の成長過程
2-3mmのモンジ初齢幼虫が親飼育容器にとまっている所。生まれたばかりは白いが、この時点で回収すると体が伸び切っておらず、尾の先が不全になったりする。体に色が付くまで待った方が安全。
解凍した冷凍アカムシを入れておくと、勝手に食べる。内臓が透けるので食べたことがわかり安心。
脱皮自体は数分で終わるが、脱皮失敗もよく見聞きする。モンジ幼虫の脱皮失敗は栄養不足・温度不足の兆候。
モンジ幼虫の脱皮! #モンジ飼育2022 pic.twitter.com/H7vQ1QxWgL
— ゲンゴロウ飼育ブログ🗯 (@gengo6com) December 4, 2022
モンジ幼虫は同じ齢でも体格差出るが、脱皮するごとに頭部が大きくなり、大きな餌を取れるようになる。飼育下では、冷凍アカムシだけで成虫にできる。
ちょっと今日は餌を食べてないと思ったら、3齢幼虫に脱皮する。
3齢幼虫になると、コオロギも食べられる。冷凍コオロギは水が汚れやすく脂も出るので、狭い容器の場合掃除しづらい。
コオロギを食べる3齢幼虫
旺盛な食欲を見せる終齢幼虫だが、餌を取らなくなり上陸の準備を始める。一番確実なサインは上半身の消化管が空になっていること。餌を取っていたり、胸部まで消化管が詰まっている状態なら、上陸はまだである。
モンジ幼虫は土表に蛹室を作るため、ピートモスの深さは不要。大きさも3-4cm直径のプリンカップで十分。
蛹室は壁際などに作られる。尾で支えながら屋根を作っていく様子は、ツバメの巣作りのよう。
頭部をシャベルのように使って、土塊を押し固めていく
これはすごい動画!ゲンゴロウ幼虫が蛹室を作る様子で、土塊を咥えたり頭部をシャベル代わりに使っている所がはっきり写っています。 pic.twitter.com/VghWcu2p05
— ゲンゴロウ飼育ブログ🗯 (@gengo6com) December 14, 2022
上陸してから10日ほどで新成虫が誕生する。幼虫が出現しだしてから18日目には新成虫が得られる超速である。
モンジ幼虫の飼育環境
通常の繁殖は夏ですが、本記事では冬の繁殖で保温上の制約あったことに注意してください。
30匹近くの幼虫が同時進行する時期もあるため、スペースの節約に工夫が必要です。場所があるなら単純に紙コップを並べてもよいでしょう。私の場合は、100均の製氷皿14区画で初齢から終齢の3齢まで飼育できています。
今回は冬のため、成虫飼育環境に幼虫飼育容器を浮かべることで同時に保温しました。室温20度程度では育たない幼虫が多く、25度以上等で安定してきた印象です。
世話としては、朝と夜の2回水換えと餌やりを行います。水深は1〜2cm程度で、足場はなくてもOK。餌は冷凍アカムシを初齢5匹、2齢5-10匹、3齢10-20匹等与えます。同じ齢でもみるみる大きくなり、食欲も増えます。
浅い水深に多量の冷凍アカムシを投入する関係で、早朝から深夜まで一日外出などでは落ちることが増えます。上陸するまで、外泊できません。
モンジ幼虫飼育のコツは、食べ残しが出る前提で多めに餌を与えることです。餌不足だと脱皮失敗などの確率が上がります。脱皮途中で死ぬ、脱皮直後に死ぬ、脱皮翌日に死ぬなど様々です。
モンジ幼虫の上陸タイミングの判断
ナミゲンでは、上陸タイミングを見逃して落とすことはほとんどありませんが、モンジ幼虫では1−1.5日上陸判断遅いと死んでしまいます。孵化日がずれていくので、1匹上陸したら後は流れで判断できますが、最初の終齢幼虫落としてしまうとショックなものです。
アドバイスいただいてわかってきたモンジ上陸の判断要素は以下です。特に「上半身の消化管が空になる」に至った個体は上陸させた方がよいでしょう。
- 餌を食べなくなる
- 上半身の消化管が空になる
- 排泄物で水が汚れる(餌が傷んだことによる汚れと異なる)
- 餌に無関心になる(眼の前で餌を動かしても大顎を開かなくなる)
- 縁で足掻いたり跳ねるなどの”上陸仕草”を見せる(見せないこともある)
下記動画では、縁で足掻く上陸仕草にくわえ、上半身が白く消化管が空になっている様子が確認できます。
モンジ幼虫につかえる餌の種類
モンジ幼虫はボウフラを好みますが、安定して確保するのは困難。飼育下では冷凍アカムシやコオロギが用いられます。冷凍アカムシだけだと小さくなる話も聞きますが、きちんと計測していません。
冷凍アカムシでも、メーカーやロットによる当たり外れがあるようです。キョーリンUVアカムシでは全然2令にできず、教えてもらって「こだわりあかむし」にしてから好調です。通販では冷凍送料がかかるため、何枚かまとめて購入した方がよいでしょう。
なお、冷凍アカムシは溶けやすく、長期保存すると冷凍焼けして痛みます。シーズンごとに廃棄するとよさそうです。
キョーリンの冷凍アカムシは小分けブロックになっていますが、「こだわりあかむし」は1枚板。自分で適宜割って回答します。幼虫の数や成長具合次第ですが、幼虫10-20匹であれば都度1-2ブロック、日に2-4ブロックの消費ペースでしょう。