自然豊かなエリアの休耕田を見て「ここをビオトープにしたい!」と思った方も多いでしょう。休耕田ビオトープは、生き物が増えるだけでなく、農家さんの草刈り負担を軽減できる枠組みでもあります。実際に休耕田ビオトープを運営してきた経験から、開設に必要な手続きと運用上の注意点についてお伝えします。
休耕田ビオトープのポテンシャル
たとえば我々が運営している休耕田ビオトープでは、1年目にナミゲンの飛来、2年目の今夏は繁殖を確認しています。
ナミゲンは難易度高いですが、ちょっと環境がよい所ならミズカマキリ、コオイムシ、ガムシ等はすぐ来てくれるし、無限にオタマジャクシが発生したり、網を入れるたびにイトトンボのヤゴたちが入るのは気持ちがよいものです。
基本的には、数km圏内の種が徐々に来るイメージをもっていればよいと思います。
「復田可能」がポイント!開設前の手続き
田んぼを借りて、稲を植えつつビオトープ的な運用をする場合、これは通常の田んぼと同じなので、特に手続きは不要です。
一方、田んぼで作物を作らず水を張るビオトープでは、以下を考慮する必要があります。
そもそも、農地をビオトープにしていいのかという疑問がありますよね。結論から言うと、休耕田のビオトープ化には問題なく、各地に事例があります。ただし、農地を一時的にビオトープとして利用する建て付けなので、復田可能な状態を保つことがポイントです。
農家さんにOKをもらったら、農業委員会に「復田できる状態でやります」と話を通しましょう。利用形態が農地転用に当たらないことを確認するためです。たとえば、池を掘って水深1mにしてしまったら、もはや農地とは言えません。
農家さんが農地として補助金を受けていることもあるので、その範囲内の利用であることを確認する意味合いもあります。
- 休耕田ビオトープは法的にもOKで各地に実例がある
- 休耕田ビオトープはいつでも復田可能にする
- 農地転用に当たらないことを農業委員会に確認する
休耕田ビオトープの管理方法


休耕田ビオトープの管理は、水を張れば終わりではありません。陸地化の抑制と周辺の草刈りが重要です。
休耕田ビオトープには周辺から雑草が入り込み、植生遷移によって陸地化が進行します。1-2年目はいい感じの湿地!と喜んでいても、3-4年目には何割かが陸地化します。最終的に優占するヨシなどの大型多年草は、積極的に刈り込んだ方が良いでしょう。この辺は、年何度訪問できるかにもよります。
また日本の気候では、年数回畔周辺の草刈りが必要です。農家さんにやってもらう方法もありますが、ここは借りている側が積極的におこなうべきです。
草刈りはBefore/Afterがわかりやすく、周辺の農家さん含め「ちゃんと管理しているんだな」とアピールできるポイントだからです。我々の場合、借りている場所の両隣の田んぼ分も刈っています。
刈払機の利用に資格は不要ですが、キックバックによる事故も多いので、安全講習の受講をおすすめします。
制度的な位置づけと支援制度
農林水産省が出している「里地・里山ではじめる自然回復」という資料には、「休耕田ビオトープ型」「谷津田保全型」が挙げられているように、休耕田のビオトープ化は法的にも問題なく各地に実例があります。


また、農地の農業以外の機能に注目した「多面的機能支払交付金」という制度では、資源向上活動の一つに「遊休農地等のビオトープ」も明記されています。
農地は農地であって、宅地や駐車場にするには「農地転用」手続きが必要と聞いたことがある方もいるかもしれません。ではなぜビオトープがOKというと「休耕田(遊休農地)」の一形態として認められているからです。
高齢化や後継者不足で農地が休耕田になり荒廃農地になるプロセスのなかで、休耕田状態を維持するだけでも年数回の草刈りが必要です。しかし、先祖伝来の土地であるとか、藪化すると近隣に迷惑がかかる等で、草刈りだけして休耕田状態を維持している場所がたくさんあります。


こうした休耕田(遊休農地)があることは国も認識していて、荒廃農地になるよりはマシということで、「多面的機能交付金」や「中山間地域等直接支払制度」で支援しています。
食料・農業・農村基本計画(令和2年3月31日閣議決定)では、「荒廃農地の発生防止・解消等について、多面的機能支払制度及び中山間地域等直接支払制度による地域・集落における今後の農地利用に係る話合いの促進や共同活動の支援、鳥獣被害対策による農作物被害の軽減、農地中間管理事業による農地の集積・集約化の促進、基盤整備の効果的な活用等による荒廃農地の発生防止・解消に向けた対策を戦略的に進める。」とされたところです。
荒廃農地の発生防止・解消等:農林水産省
草刈りを負担に感じている農家さんも多いので、ビオトープ利用者が周辺の草刈りを行うことで、行政・農家・利用者3者ともメリットが生まれるというわけです。
その代わり、いつでも復田可能にする必要があって、返せと言われれば返さないといけない不安定な立場が、休耕田ビオトープの限界といえるでしょう。
休耕田ビオトープについて記載された資料・公的サイト
国や自治体のサイトに掲載された休耕田ビオトープ事例があります。休耕田をビオトープ化していいの?と聞かれたら、これらの資料を提示しましょう。
- 休耕田を活用したビオトープ整備による生態系保全活動事例(農林水産省)
- 用途廃止された水路を活用したビオトープの造成(農林水産省)
- 生き物ぎょうさん里村 | 福井県ホームページ
- 遊休農地の活用 ②ビオトープとしての活用(山口県日本型直接支払推進協議会)