大型の水生昆虫ガムシは、フィールドでゲンゴロウを探すとよく会う種です。ガムシは草食の穏やかな昆虫で、最近流行りの昆虫食にもよく混ざっています。ガムシの特徴や生態、ゲンゴロウとの違いや見分け方、餌や飼育方法、卵と幼虫の育て方について説明します。
大型の水生昆虫「ガムシ」とは
ガムシは、ガムシ科(Hydrophilidae)の甲虫の総称、あるいは4cm弱になる代表種のことを指します。大型種のことを呼ぶ場合は、ゲンゴロウのナミゲンゴロウ・オオゲンゴロウ同様、ナミガムシ・オオガムシなどと呼ぶことがあります。本記事では大型種の方を扱います。
ガムシ(Hydrophilus acuminatus)は33〜40mmの水生昆虫です。植生豊かな湿地に生息し、分布は北海道・本州・四国・九州と、ほぼ全国です。水辺のほか、灯火にも飛来し、場所によっては多産します。
肉食のゲンゴロウに対して、ガムシは草食で飼育下ではオオカナダモなどの水草を与えます。繁殖期には栄養補給のため動物性の餌も食べるため、正確には草食性が強い雑食です。
なお、ガムシ幼虫は肉食で、モノアラガイなどの貝類を好みます。
昆虫食としてのガムシ
近年B級グルメとしてタガメやゲンゴロウももてはやされていますが、ゲンゴロウとして出されているものがガムシである例が頻繁に観察されています。
昆虫食は彼らが豊富に生息している東南アジアから輸入されていますが、採集している現地の人々がゲンゴロウとガムシを区別していないようです。結果として、ガムシがほとんどの例も見かけます。
TAKEOとか誠実な所はガムシも併記していますが、ゲンゴロウ表記のみの所もあり、門外漢ながら大丈夫なのかなと思っております。
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私は食べたことがありませんが、肉食のゲンゴロウと草食のガムシでは味も異なってくると思うので、食べ比べてみた方はどんなだったか教えて下さい。
ガムシとゲンゴロウの違いと見分け方
ガムシは光沢のある黒色で、楕円形の体型を持ちます。ガムシは牙虫とも書きますが、その由来は腹側に突き出した棘にあるとされています。
この棘の機能はよくわかっていませんが、捕食を避けるため、あるいは船のキール(竜骨)のように泳ぎを安定させるのに役立つことが考えられます。
この腹部の棘はゲンゴロウにはありませんので、見分けるポイントです。
ゲンゴロウは後脚に発達した遊泳網を持ち、左右同時に動かしますが、ガムシは遊泳毛がまばらで、脚を交互に動かして泳ぎます。したがって、左右の脚の動かし方もガムシとゲンゴロウの見分け方の一つです。
ゲンゴロウと比べれば泳ぎが下手なのは確かですが、水草豊富な場所にいて泳ぎが上手である必要もないのでしょう。
ガムシの呼吸方法
ゲンゴロウがお尻から空気を取り入れるのに対し、ガムシは触覚から空気を取り入れて腹部の繊毛に貯めます。下の動画で、頬を水面に付けてじっとしているシーンは、ガムシが空気を取り入れている所です。
ガムシの泳ぎは下手なのか?
ガムシは泳ぎが下手とされます。これはゲンゴロウと比べると下手なだけで、生活するには十分上手です。また、平泳ぎのように脚を揃えて泳ぐゲンゴロウに対し、脚を左右に動かして泳ぐガムシは、ドタバタした印象があるかもしれません。
なお、先日BUZZったタマガムシのように、ガムシの仲間にも遊泳が得意な種もいます。
ゲンゴロウ各種の姿かたちについては、以下の記事も御覧ください。
ガムシの餌や飼育方法
ガムシは飼育下ではキャベツやほうれん草、オオカナダモなどを食べます。結構大食漢なので、数を飼うと大変なことになります。
ガムシに食べられて茎だけとなったオオカナダモ。オオカナダモも水槽に入れておくと無限に増える印象がありますが、それより早く食べられます。
増殖速度が早い水草も、野外ではガムシなどに食べられることによってバランスを保っているのだな、ということがよくわかります。
水質の悪化も激しいので、エアレーションしていない場合週1-2回水換えが必要でしょう。
水面に浮かぶガムシの卵
ガムシは落ち葉や水草などでおおった卵嚢を水面に浮かべます。先端に煙突のように突き出した部分があるのが特徴です。煙突の役割は不明ですが、酸素供給に役立っているのでしょうか。
ガムシ幼虫の餌と育て方
成虫のガムシは草食よりの雑食で、幼虫時代は肉食です。ガムシ幼虫はモノアラガイが好物ですが、大量のモノアラガイをいちいち集めるのはなかなか困難です。私はモノアラガイ(サカマキガイ)が多い屋外水槽に放置して、終齢になってから回収しました。
ガムシ幼虫は左右非対称で立派な牙を持つがっしりした頭と、ゲンゴロウよりぶよぶよした腹部を持っています。このぶよぶよ具合が苦手な人は多いようですね。
上の写真でも白い殻が沢山転がっていますが、終齢幼虫の食欲は旺盛なので餌には苦労しました。モノアラガイ・サカマキガイの他、レッドラムズホーンやタガメが食べ残した小金なども食べました。
ゲンゴロウ幼虫の場合、牙から消化液を注入・吸収しますが、ガムシ類ではそのような機構がないため、空中に餌を持ち上げて消化する生態があります。ガムシでは、水中でのけぞる感じでやっています。
今年、 ヒメモノアラガイが捕食に反応してガムシ幼虫から逃避する行動が論文になりました。映像で見ると一目瞭然ですが、これに気づいてきちんと検証したことがすごい!ガムシのような有名な種でもまだまだ知られていないことが沢山あるのですね。
一回は注目して欲しいガムシ
ゲンゴロウと比べると地味なイメージが有るガムシですが、餌の量の問題はあるものの穏やかで飼いやすい種です。水槽の水草を荒らしてしまうのでなかなかメイン水槽には入れられないと思いますが、水面に浮かんだ卵嚢や迫力ある幼虫など、図鑑で知っているのと実際に見たことがあるのはまた別物です。
一度は産卵から成虫まで追ってみるのも良いのではないでしょうか。
初めまして!先月から初めてガムシを飼育しました。名前さえ知らなかったガムシ。飼育に試行錯誤しながら育て、卵から成虫まで育て今成虫5匹と幼虫15匹、多分土に潜ってる幼虫もいます。でも希少種なのに、家で飼育していては自然界では増えません。自然界に離したいと思っていますが、成虫の段階か幼虫のままか?悩んでいます。宜しくアドバイスお願いします
コメントありがとうございます。
初めての飼育で20匹近く成虫にできるのはすごいですね!
繁殖させた虫を放したいというご相談はたまにあるのですが、元の場所に戻すとしてもただの放流になってしまうので、最後まで飼育いただくようお話ししています。
元の環境には餌の量などでキャパがあり、それ以上の個体を投入しても生き残ることはできませんし、既存野生個体と餌を奪い合うことになります。
また飼育環境由来の病原体や、外来水草等を野外に持ち込むリスクが考えられます。
結局の所、野外個体数を増やすには元の環境を改善して生息環境を整えることが一番なのです。
以上、よろしくお願いします。