新たな湿地が生まれない現代において、ため池や田んぼなど人の手で維持されている環境が水生昆虫たちにとっても大事、という話

休耕田の陸地化(植生遷移)

最近では災害対策としてため池を潰す動きがあるそうで、希少種がいれば配慮されることもありますが、そのまま潰されてしまうことも多いように聞きます。また、高齢化や人手不足で耕作放棄される田んぼも増えています。新たに生まれる湿地が減っている現代において、ため池や田んぼのように人の手が入ることで維持されている環境も、水生昆虫たちにとって大事です。

里地里山に代表される「二次的自然」とは

狭い日本に人の手が入っていない場所はほとんどありませんが、里地里山のように生産・生活のため定期的・周期的に人の手が加わることで維持されてきた環境を特に「二次的自然」と呼びます。

「里地里山」は、集落を取り巻く二次林と人工林、農地、ため池、草原等を構成要素としています。里地里山が管理されなくなると、田畑で言えば裸地から草原へ、草原から森林へ変化し、やがて原生状態に戻ります。 そうすると、ため池や水田・水路に暮らしていた生物もいなくなります。

千葉・房総半島の棚田が森に戻っていった様子

里地里山には多くの希少種が生息している

日本では2020年現在、3,700 種を超える動植物が絶滅危惧種となっています。このうち多くの種が里地里山等の二次的自然に生息しています。例えば、両生類、淡水魚類、昆虫類の約7割が二次的自然に生息すると推定されています。

  • 絶滅危惧種として環境省レッドリストに掲載された里地里山を生息地とする動物種は、1991年の第1次レッドリスト以降の30年ほどで11.4倍に増加

2017年に創設された種の保存法「特定第二種」は、里山里池などの二次的自然に生息する希少種を保護する制度。特定第二種には、2020年に・カワバタモロコ・トウキョウサンショウウオが指定されています。

環境省「特定第二種」制度概要より

湿地はあっという間に森に戻る

水生昆虫採集では、狙っていたスポットが陸地化していた経験を持つ方は多いはず。田んぼが耕作放棄されると、数年で草地化し、最終的に木が生えて森に戻っていきます。休耕田が陸地化するスピードには驚かされるばかりです。

高校の生物でも取り上げられている「植生遷移」は、裸地が草原になり森林になる変化を指します。

休耕田は多年生植物(ガマ・アシ・マコモなど)の群落が優占する時点で復田が困難になるとされています。ある実験では、休耕田をビオトープ的に湛水管理する場合、3・4年目に大型の抽水植物が急増するので、3年目には刈払いと耕起が必要としています。

つまり、耕作放棄されて5年もたてば、休耕田は湿地としての機能を失ってしまうと考えられます。

湿地の植生遷移
湿地の植生遷移

二次的自然では水路やため池も構成要素ですが、泥上げや底ざらい、定期的な池干しなどの管理が行われてきました。管理放棄されたため池では、周辺の木が育つにつれ落ち葉がたまりやすくなり、富栄養化して膝まで泥がたまるなどの状況に陥ります。

新たな湿地が生まれていた時代と、そうではない現代

治水が不十分な江戸時代には、台風や大雨のたびに河川が氾濫し、新たな湿地が生まれていました。これを「氾濫原湿地」と言います。すぐ陸地化するとしても、毎年新たに湿地が生まれるので水生昆虫たちには問題なかったわけです。例えば、タガメは期に飛んで移動しますが、生息環境に適した湿地が点在していれば、飛んでいった個体が無駄死にしないことにつながります。

開発や治水が進んだ現代では、新たな湿地が自然に生まれることはほとんどなくなっています。国土地理院の資料によれば、明治・大正時代にあった2,100km2の湿地は埋め立てや干拓によって800km2に減少したとされます。こうした背景から、人の手が入ることで湿地として維持されているため池が、水生昆虫たちの生息環境として重要になっています。

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