千葉フェモラータ現地状況についての覚書き(2025)

外来種フェモラータオオモモブトハムシが、関東に侵入・定着したことが確認されました。2025年7月に千葉県外房で目撃情報が相次いだため現地入りし、広範囲で成虫と虫瘤を発見しました。生息範囲と個体数から逆算すると、侵入は数年前に遡ると考えられます。各氏の短報も出揃ったため、ここでは私個人の確認経緯をまとめます。

千葉フェモラータ発見の経緯

外来種のフェモラータオオモモブトハムシは、体長20~30mmほどの大型ハムシ。原産はインド、タイ、ベトナム等の東南アジアと中国南部。昆虫食界隈でも幼虫が美味なことで有名です。

海外ではマメ科作物を食害する害虫として知られ、日本でも植物防疫法の輸入禁止昆虫や「生態系被害防止外来種リスト」掲載種となっています。2009年(2008年?)に三重県に侵入、愛知三重大阪兵庫等で確認されているものの、関東での報告はありませんでした。

ところが2025年7月、千葉県外房で目撃事例が相次ぎ、これは侵入・定着しているのでは?と話題になったのです。別々の人が独立に見つけたということは、それなりの範囲にそれなりの個体数がいる可能性が高い。

物理的に行ける距離だったことと、関東初記録か?という所で興味が湧き、伝手を辿って現地入りしたのでした。

千葉フェモラータ2025年7月確認例
千葉フェモラータ2025年7月確認例

千葉フェモラータは広範囲に定着している

発見者が知人の知人だった、外房に土地勘ある友人いたなどの幸運もあり、確認済の所を中心に回った結果、1回目は虫瘤のみで成虫は空振り、翌週は50匹以上の成虫と虫瘤を確認。

個人の所感としては、各地の虫瘤から2024年の繁殖は確実、個体数も多いことから数年前に侵入していた可能性もありそうです。既に広範囲に定着しホストの葛も無限にあることから、根絶は難しいでしょう。

なお記録としては「月刊むし2025年9月号」に2025年産、「さやばね」に2024年産の報告が出ています。

千葉フェモラータが葛に作った虫瘤
千葉フェモラータが葛に作った虫瘤
見渡す限りの葛の山
見渡す限りの葛の山
葛の葉の上にいる千葉フェモラータ
葛の葉の上にいる千葉フェモラータ

フェモラータは葛の木質部分に虫瘤を作り、そこから数匹ずつ発生します。脱出済の虫瘤も各地で確認しました。これはフェンスに絡んでいた物。中に新成虫がいたので羽が挟まっています。これで現地での繁殖は確実です。

千葉フェモラータの虫瘤

フェモラータの蛹室。蛹室を作るための物質を共生細菌から生成しているとかなんとか。

千葉フェモラータの蛹室
千葉フェモラータの蛹室

フェモラータの幼虫。時期的に来年羽化でしょうか。

千葉フェモラータの幼虫
千葉フェモラータの幼虫

紛らわしい虫

余談ですが、葛を利用している虫はたくさんいます。白黒模様からパンダゾウムシと呼ばれることもあるオジロアシナガゾウムシもその一つ。

オジロアシナガゾウムシ
オジロアシナガゾウムシ

木質ではない茎が緑色なところに作られた虫瘤はこのオジロアシナガゾウムシの可能性が高いです。

オジロアシナガゾウムシの虫瘤
オジロアシナガゾウムシの虫瘤

侵入経路や方法は?

既存産地と大きく離れていることから、その侵入経路や方法も気になる所です。

自然拡散ではないとして、トラックなどに付着して偶発的に運ばれるか、放虫されたかということになります。

従来産地では河川敷事例が多いので、放虫であれば河川沿いになることが考えられます。しかし、外房は大きな河川敷をもつ河川が少なく、そうではない住宅街や空き地周辺でも見られます。

広範囲に定着しているため、侵入経路を特定するのは既に難しそうです。あるいは、複数地点にまいたというシナリオも想定されるかもしれません。

千葉フェモラータは既存国内個体群とは別の新集団なのでは説

フェモラータは東南アジアでは緑や青発色の個体もいるのに対して、三重系の既存国内個体群はピンク系の発色に限られることが特徴と聞いています。

これに対して、千葉個体群は発色パターンが異なり別の新集団なのではという指摘があります。一方、さやばねの報告では赤色系メインで緑系は羽化直後個体だったのではとの考察。私が採集したのは8月頭ですが、6月から発生するようなので、時期によって色の傾向に違いがある可能性も?。少なくとも、新成虫の可能性を考慮して手元で2-3週飼っていた所では赤系に変化する個体はいませんでした。

私たちが採集した千葉フェモラータ50-60匹のうち、濁ったピンク色が主流で、3-4割の個体が暗緑色系です。ほぼ黒色個体もいます。これについては詳しい方の分析を待ちたいと思います。

写真は、ピンク色に近い個体と濁った赤系個体(上)。オスでは後脚が長く発達する。体長は個体差が大きい印象。

交接する千葉フェモラータ
交接する千葉フェモラータ

明るいピンク/赤個体のほかに3-4割濁った色の個体が混じり、なかにはほぼ黒に近い個体も。

千葉フェモラータ暗色個体
千葉フェモラータ暗色個体

このように緑が入る暗色個体もいるが、東南アジアのように純色の緑色個体はいなかった。

緑も交じる個体と明るいピンク色の個体の交接
緑も交じる個体と明るいピンク色の個体の交接

現地採集にあたっての注意

まず、真夏の野外は命に関わります。フェモラータは葛の木質部に虫瘤を作りますが、そこにたどり着くには藪払いしなければいけません。私も十分注意していましたが、数時間活動しただけで翌日まで頭痛が残りました。

虫除け帽子長袖長ズボン手袋等は忘れずに。房総にはキョンやイノシシのせいでマダニが多いです。また葛に混じってノイバラのトゲを掴んでしまうこともあります。かなり痛いです。

それから本稿では詳しいスポット触れていませんし聞かれても答えませんが、外房は大きな道が少なく、生活道路にもかなりの流量があります。

部外者が道端に車を止めて周辺住民に迷惑をかけることが想定されます。十分注意してください(との現地の方からの伝言です)。

まとめ

外来種の侵入自体は喜ばしいことではありませんが、その初期状況を確認する経験は初めてで色々勉強になりました。2025年11月に出たさやばねの報告では2024年時点で繁殖確認されているとのこと。目立つ種であることを考えるとここ数年で入ってきたのかな、という印象ですが、すでに広範囲にそれなりの個体数がいて、葛も膨大にあるため根絶は厳しいでしょう。

また既存個体群と異なるのではという件については、サンプルを各所に送っているので、今後の進展を待ちたいと思います。

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