タガメは日本最大の水生昆虫ですが、世界にはさらに大きなタガメがいます。世界最大のナンベイオオタガメ、アフリカにいるタガメモドキ、身近なものでは昆虫食で使われるタイワンタガメ、などです。
日本のタガメの基礎知識
日本のタガメはオスで55-60mm、メスで60-65mm程度ある日本最大の水生昆虫。日本のほかロシア・朝鮮半島・中国・台湾・アッサム(インド北東部)などに生息します。
タガメは1950年代まで都市近郊でも普通に見られましたが、農薬や開発により1980年には各地の地域絶滅が報告され、現在では「種の保存法」特定第二種に指定されています。
次に紹介するタイワンタガメも八重山諸島の与那国島にも分布しますが、ごく少数かつ1970年代を最後に記録が途絶えています。
昆虫食に使われる「タイワンタガメ」
今日本人が一番見ているタガメは「タイワンタガメ」でしょう。現地で食用にされるほか、日本にも昆虫食用に輸入されています。
「タイワンタガメ」は東南アジアなどに生息し、80mm弱に達します。外観から日本のタガメとの識別は容易です。
- タガメの眼球は三角だが、タイワンタガメでは円形に近く大きい
- タイワンタガメは、頭部から胸部にかけ逆V字型の模様がある
- タイワンタガメは、タガメより体格比の前脚が小さい
- タイワンタガメは、タガメより扁平な後ろ脚を持つ
標本だと色の違いがわかりづらいですが、生体で見間違えることはないでしょう。なお、タイワンタガメの前脚が小さいと書きましたが、世界のなかでは日本のタガメの前脚が大きいという言い方が正確です。
タイ現地の様子
タイワンタガメ(現地では「メンダー」)は東南アジアではタンパク源として食用にされます。市場で山盛りになっている写真を見たことがある方も多いでしょう。
なかでもタイワンタガメのオスは、洋梨のようなフルーティな香りを持ち、料理に活用されるほか、日本でも「タガメサイダー」として商品化されています。
このように現地では食用にしたり海外に輸出されるほど生息数がいるタイワンタガメですが、そのわりに生体の輸入はあまり見かけません(海外産クワカブに比べれば)。
また水生昆虫飼育のバイブル的な書籍「水生昆虫完全飼育」によれば、タイワンタガメの飼育は日本のタガメより難易度が高いようです。水質に敏感だったり、冬季の保温が必要だったり、警戒心が強く人の気配に敏感などが挙げられています。
※Twitterで現地写真みたいのですが、メンダーがヒットするタイ語のつづりがわからず苦戦しています。ご存じの方教えて下さい!「แมลงดา」だと無関係な写真も混じってきてしまいます。
タガメサイズの巨大コオイムシ!アフリカの「タガメモドキ」
コオイムシを見た目そのままにタガメサイズにした巨大コオイムシが「タガメモドキ」です。日本のタガメより大きい7cm超えの種もいますが、タガメと異なり前脚の爪が2本ある、前脚が上から下に振り下ろす形、オスの背中に卵を産むなどの特徴があります。
アフリカ原産ですが日本でもたまに輸入され、2020年から石川ふれあい昆虫館でも生体展示されています。
2020年にアフリカのモザンビークで撮影されたタガメモドキ動画。
世界最大!10cm超えのナンベイオオタガメ
世界最大で10cm以上になる超大型種「ナンベイオオタガメ」。あまり情報がありませんが、中南米に複数種いて、灯火などに飛来します。
日本のタガメ世界のタガメ
タガメは55-65mmと日本最大の水生昆虫ですが、世界最大のナンベイオオタガメはさらに、10cmを超える“超大型巨人”です。食用にされるほど数がいる東南アジアのタイワンタガメと異なり、ナンベイオオタガメは写真・動画ともほとんど見かけず、鮮明な生体写真はAntRoomさんくらいです。
おそらく、稲作が盛んなアジアとそうでない南米の農業形態の違いがありそうです。昆虫先生がいずれNHKパワーで海外取材してくれることを期待しましょう。
※追記
放映当時見逃していましたが、コスタリカ海外ロケ回に野生のタガメが登場することを教えてもらいました。数人で検討した限りでは、ナンベイオオタガメではなさそう、ということになっています。
香川照之の昆虫すごいぜ! 特別編 カマキリ先生☆コスタリカへ行く | NHK for School(タガメ登場は19分頃)
初めてコメント失礼します。
ナンベイオオタガメについてですが、一般的にL.maximusとL.grandisの2種を指して用いられることが多い様です。しかしながら異なる2種に対して同じ和名(本種の場合は俗称と言うべきか)が用いられるのはあまり好ましいこととは言えず、混乱を防ぐ意味でも「ナンベイオオタガメ」の名もあまり用いないほうが賢明かと思われます。先に挙げた2種以外の南米産中型種(全8種)に対してに対して「ナンベイタガメ」等の名称が充てられていることもありますが、こちらも同様の理由で適切とは言えません。
どうしても和名を使用したい場合は上記の趣旨を記載する等の配慮が必要かと思います。
世界のタガメ類24種の内、現状で標準和名と呼べるような名称が提唱されているのは日本にも分布するタガメK.deyrolliとタイワンタガメL.indicusのみです。
主にインターネット上で流布している「アメリカタガメ」「アフリカタガメ」「オーストラリアタガメ」等の名称もすべて俗称であり、あまり好ましいものとは言えません。
以上、長文駄文失礼致しました。
コメントありがとうございます。
その後Twitterでナンベイオオタガメでも、南米全域に分布するL.maximusと産地が限定されるL.grandisに分かれることを教えていただきました。
ご指摘の通り、アメリカだけでも多数種がいるのに対し、適切な和名が与えられていない問題は、感じております。
研究に足りるほどの個体数を手に入れる機会もなく、この状態は数十年続くのかもしれません。ご指摘ありがとうございました。
香川照之の昆虫すごいぜ!に出ていたタガメは、Perez Goodwyn 2006を見る限り、Lethocerus bruchiだと思います。Perez Goodwyn 2006によると、ナンベイオオタガメL.maximusはコスタリカに生息しないようなので、ナンベイオオタガメではなさそう、というのは正しいと思われます。
コメント失礼します。
ナンベイオオタガメと呼ばれる種は、、前のコメントの通り南米大陸全体に生息するLethocerus maximusと、ブラジル南東部、コロンビア(古い記録のため、今も生息するか不明)に生息するL.grandisの2種です。2種はどうやら前足の模様から判別できるようで、Inaturalistの画像見ると分かりやすいです。どうやら産地が限定されるgrandisはみる限りヤフオクではたったの1件のみしかないようです。(https://aucview.com/yahoo/m1076588162/、出品者はmaximusとしていますが、産地+、前足の模様からgrandisと判断)
しかし、maximusとgrandisは、本当に似ているので、異種なのかそれとも亜種的関係なのか、DNAなので調べてみたいものです。
長文失礼しました。