日本では今、在来のハラビロカマキリが急速に外来のムネアカハラビロカマキリに置き換わっていることが話題となっています。生息環境が競合する上、ムネアカハラビロカマキリの方が大型です。生息域が広がっている理由として、中国から輸入された竹箒(ほうき)に卵鞘 (らんしょう)が付着していることが指摘されています。
カマキリにはくわしくありませんが、せっかく勉強した分をまとめておきます。
日本各地で侵入が確認されるムネアカハラビロカマキリ
ムネアカハラビロカマキリは、中国大陸原産の侵略的外来種。2010年に初めて確認されると、現在では20都道府県以上で記録されています。数年で在来のハラビロカマキリを置き換えてしまうなど、生息域の拡大速度と在来種への影響の両面で注目されている外来種です。
ムネアカハラビロカマキリの学名
ムネアカハラビロカマキリの学名はHierodula chinensis。類似種が多く、当初Hierodula membranaceaあるいは、Hierodula formosana、Hierodula venosaなどが提唱されました。2021に広島産で分子系統解析がおこなわれ、chinensisが示唆され、現在はHierodula chinensisであろうということになっています。
※地域個体群によってはchinensis以外の場合もあるかもしれません。
※過去標本から、2000年ごろには侵入がはじまっていたとされます。
ハラビロカマキリとムネアカハラビロカマキリの違いと見分け方
在来のハラビロカマキリは、本州・四国・九州・南西諸島に生息する中型のカマキリで、体長は50mm〜70mm。オオカマキリなどと比べ、羽根に白い斑があり、胸が短く腹部がその名の通り幅がある体型で区別されます。また、草むらではなく、樹上性が強い生態です。
一方、ムネアカハラビロカマキリは体長60mm〜80mmと在来種より大型です。
ハラビロカマキリとムネアカハラビロカマキリの見分け方としては、胸が長めで全面赤みがかるムネアカハラビロカマキリと、黄色に一部黒斑が入るハラビロカマキリという違いがあります。
また、前脚の鎌の部分に、大きな白い突起が3つあるハラビロカマキリと、小さな突起が8-9個あるムネアカハラビロカマキリという違いは、見分けるのにわかりやすいポイントです。
以下の写真では、羽根の白い斑、胸が短い様子など、オオカマキリとは違う特徴が写っています。
また、ハラビロカマキリとムネアカハラビロカマキリでは、卵鞘 (らんしょう)の形状にも違いがあることが知られています。
平べったく全面付着しているハラビロカマキリの卵に対し、ムネアカハラビロカマキリでは表面が白っぽくビロード状、下部が枝から離れるわかりやすい特徴に注目しましょう。
ムネアカハラビロカマキリの侵入経路は輸入された竹箒?
ムネアカハラビロカマキリの問題は、確認されだして10年程度で20数都道府県という拡散速度の速さと、在来種を駆逐する侵略的外来種の側面です。
自然拡散の場合、侵入地から徐々に広がっていく拡散経路を示すのが普通です。しかし、ムネアカハラビロカマキリでは各地で同時多発的に侵入が記録されています。また、確認地点が点在していて、植樹由来だけでは説明できない要素がありそうでした。
これについて、中国から輸入された竹箒(ほうき)由来という指摘が2018年にされています。論文筆者が勤務する多摩動物公園や、ホームセンターでチェックした数百本の竹箒からは3%程度の卵鞘の付着が確認され、孵化した幼虫はムネアカハラビロカマキリだったとのこと。
これらの竹箒は中国杭州産で、一時学名とされたHierodula venosaは生息せずHierodula chinensisはいるエリアであることも、その後の情報と矛盾しません。
また、公園などの整備に使われる竹箒由来なら、同時多発的に各所で見つかっていることの説明も可能です。
竹箒から確認されたカマキリの卵
ムネアカハラビロカマキリ竹箒由来説は虫好きに知られるようになり、各地で実際の確認例があります。
※ムネアカハラビロカマキリと確認していないものもありますが、竹箒に付着している例
ムネアカハラビロカマキリに関するFAQ
ムネアカハラビロカマキリは侵略的外来種ですが、今の所は特定外来生物等の法規制種ではありません。したがって駆除等の対象ではありませんが、在来種を駆逐することが知られているので、動向が注目されています。