早ければ2023年から法規制されるアメリカザリガニ。私の子どもが通う小学校で、アメリカザリガニを飼育しそれを生徒に描かせて展覧会を行う事例がありました。学校教育における外来種問題の扱いについて、現状と今後の見通しをまとめました。
追記:2023年からアメリカザリガニが特定外来生物に指定されることが確定
2022年3月1日、政府は外来生物法を一部改正する議案を閣議決定しました。国会審議と法改正を経て、来年2023年にはアメリカザリガニが特定外来生物に指定されます。
小学校低学年でアメリカザリガニを教材として扱っている実例
先日、私の子どもが通う小学校で、子どもの作品の展覧会がありました。各学年が取り組んだ作文や書道、絵や立体物を展示する企画で、父兄もコロナ対策した上で見られます。学年が上がると作文内容なども立派になり感心しました。
そのなかで、低学年では生活科(理科)で育てているザリガニを題材に絵を描いたようです。アメリカザリガニは生態系を荒らす侵略的外来種で、早ければ来年2023年にも規制されます。飼育はOKになる見込みですが、法規制間近の種を教育で扱っているとは痺れますね!
実は、小学校低学年でアメリカザリガニを飼育教材に用いる例は珍しくありません。先日の外来生物法改正に関する答申とそれに先立つ会議などでも、問題とされてきたことなのです。という話をします。
ところで、うちの子どもが描いたアメリカザリガニ。脚の数は正確には5対10本なのが惜しいですが、アメリカザリガニの特徴であるハサミの小さなトゲなど、よく観察できています。口の周りにごちゃごちゃ細かいパーツがある所にも気づいているようです。
以前買ったプラモのことを覚えていたのかもしれませんね。あれはよくできていたのでおすすめ。
ところで、背中に乗っている灰色の物はなんだい?
鎧だよ!強くなると、増えていく
なるほど。脱皮したらリセット?
あっそうか!いや、レベルアップで殻自体が固くなっていく
それはいいね!素材が固くなる
子どもながらに設定がよく考えられていて成長を感じました。
小学校で飼育されていたアメリカザリガニ
これは小学校で飼育されているアメリカザリガニ。錆びた空き缶があるので採集してきたものかと思いましたが、子どもによれば買ってきたとのこと。子どもたちの絵の説明にドブ川で〜のような説明が複数見られたので、そういう生息環境に住むことを強調するためかもしれません。
学校教育における外来種問題の扱い
教育指導要領では、外来種問題を中学以降で扱うことになっています。一方、アメリカザリガニが侵略的外来種であることに触れずに小学校低学年の飼育教材として用いられていることは、以前から問題視されてきました。
アメリカザリガニとミシシッピアカミミガメの法規制を念頭に、外来生物法の改正を促す答申が2022年1月に出ましたが、その中でも言及があります。外来生物法は環境省の所管ですが教育は文科省ですから、文言を入れることで連携を促すものでしょう。
特に小学校低学年において侵略的外来種であることへの認識なくアメリカザリガニ等が飼育されている事例が多いことを踏まえ、より早期からの教育との連携が必要である。
答申P18
アメリカザリガニの規制にあたっては、飼育可な新カテゴリーの創設が想定されています。とはいえ、法規制される侵略的外来種を飼育教材で扱うわけにはいかず、教科書類の改定が予想されます。その際、アメリカザリガニを扱わないことで済ませてしまうのか、外来種問題に触れるのかが注目されます。
中高になると生き物に対する興味を失ったり、受験勉強で生物をスルーする人たちも増えるでしょう。生き物に触れ合う機会が多い小学校低学年で、外来種問題をきちんと扱うかは、大げさにいえばその世代以降の常識が変わる転換点となります。
「より早期からの教育との連携」と念押ししている部分が効いてきてくれることを祈りましょう。
教育現場におけるアメリカザリガニの扱いに関する議論
教育現場におけるアメリカザリガニの扱いに関する議論は、2020年にアメリカザリガニを除く外来ザリガニ全種が特定外来生物入りした時の専門家会合にも出てきます。
※引用部分のマーカーは筆者
【中井委員】
今回、検討対象がザリガニでしたが、外来種対策の普及啓発というところでいくと、一番の懸念がアメリカザリガニだと思います。ずっと前から言われていることですが、学校教材で使われていることについては何か改善の余地はないのですか。環境省から文科省に対して。
議事録第5回専門家グループ会合(無脊椎動物)(2020)
身近な観察のしやすい生き物としては確かにそのとおりなので、全国津々浦々で教材として、いないところだと購入して拡がっていって、それが教育という名のもとにどんどん拡がっている状況が続いているわけです。そもそもアメリカザリガニとアカミミガメは、ずっと特定外来生物に指定したくてもできない二大巨頭だったはずです。最初からやばいと分かっていたけれども、これだけ身近だし、これだけ飼育者が多いし、子供が犯罪者になってもいけないということで、特定外来生物の枠とは別に要注意外来生物などができたわけです。
そういう中で、一方でその状況を悪化させるといいますか、さらに先に進めてしまいかねない原因の大きな部分として、教材になってしまっている状況は、何とかしなければいけないとずっと当初から言われていたと思います。こういう会合がないので、そのままになっているのかもしれませんが、何らかのアクションを今後考えなければいけないとお考えかどうかということです。
「ずっと前から言われている」と2回も言及していることや、教育現場における現状をまとめた資料が用意されていることから、委員個人の意見ではなく、会議の検討議題の一つであったことがわかります。
教育指導要領や教科書における取り扱いについては、現状が「学習指導要領における外来種の取扱い」でまとめられています。発達度にしたがって、中高から外来種について教えるということになっていて、小学校については外来種について触れる指示がありません。
これについて調べた論文「教科書における外来生物の扱いに関する調査―小学校生活科,小学校理科,中学校理科,高等学校理科の検定教科書を基に―」も資料として提出されています。
また、答申に先立つ「第3回 外来生物対策のあり方検討会(2021)」でも、以下の資料が用意され、アメリカザリガニを採集した経験ある人が全体の5割、年代では採集・飼育とも小学校低学年が70%台と最多であることが示されています。
- 生活科教科書における飼育後の外来種の扱いに関する記載の変遷と現状(土井 徹)
- アメリカザリガニの飼養数等の実態把握アンケート
まとめ
現在の教育指導要領では小学校で外来種問題を扱わないことになっているので、アメリカザリガニが教材として使われたこと自体は、どうこう言うつもりはありません。
大事なのは外来生物法改正を受けて、小学校低学年で外来種問題を扱うようになるかです。答申の内容を素直に受け止めれば、その期待が持てます。生き物に触れる機会が多い小学校低学年の教育が、その世代以降で外来種問題の基礎知識を持つかを左右します。
答申のこの一文に注目している人がどれだけいるかわかりませんが、この一文が未来を変えていくのです。
特に小学校低学年において侵略的外来種であることへの認識なくアメリカザリガニ等が飼育されている事例が多いことを踏まえ、より早期からの教育との連携が必要である。
答申P18