「あらたにす」のアメリカザリガニ記事が雑だったのでついつい突っ込んでしまった

ザリガニのプラモデル外箱

「生命を大事にすること」と一見矛盾するので、外来生物の駆除にあたっては「かわいそう」「人間の都合」「殺すな」という反応が起きがちです。アメリカザリガニやミシシッピアカミミガメの特定外来生物指定に向けた法改正の検討が始まっていますが、社会に理解を深めてもらうコミュニケーションが必要だなと感じます。

特に、アメリカザリガニは教育現場で活用されてきた経緯もあり、またアメリカザリガニがいる水辺を見たことしかない人も多くなっていますが、日本にはまだまだアメリカザリガニが侵入していない湿地があり、そこでは水草や水生昆虫など多くの希少種が生命をつないでいます。

「あらたにす」のアメリカザリガニ記事の件

さて、真面目にコメントしたら、長くなってしまいました。朝日・日経・読売3社で運営する「あらたにす」というサイトは、2012年に一旦終了した後、「大学生たちの言論空間」に生まれ変わったようですね。編集部として学生さんが並んでいますが、新聞社の社員がレビューする体制ではない可能性があります。

該当記事にコメントしましたが、承認制でコメントが公開されるかわからないので転載しておきます。少し、直してあります。

–以下該当記事へのコメント

記事拝見しました。学生さんということで仕方ないですが、基本的な誤りがあり、公開前のレビューが不十分とお見受けします。私も仕事では原稿を見る立場ですが「ソースは?」で戻すと思います。

1.「アメリカザリガニが特定外来種に指定された」

事実関係の誤り。特定外来生物指定に向けた法改正の検討が始まった所です。冒頭から間違っているとレビュー不足に見えますし、「非常に強い興味」がある人は基本的なところで間違えません。

生態系への影響が深刻な外来種のアメリカザリガニとアカミミガメ(ミドリガメ)について、環境省は法令で定める特定外来生物に指定し、野外で繁殖しないよう規制する方向で検討を始めた。

アメリカザリガニ、特定外来生物に指定へ 放出禁止に:朝日新聞デジタル

2.「特定外来種」「特定外来生物」が混じっている

用語の誤り。正確な用語を用いることや、用語の統一は、原稿の基本です。外来生物法で指定されるのは「特定外来生物」。つまり、「アメリカザリガニが特定外来種に指定された」は二重に間違っています。

仮に「特定外来生物」という用語に慣れていなくても、複数の用語が出てくる時点で気づいてほしかった所です。

その他論理が弱いか誤っているもの

> しかし、人間に害を与えるようになった瞬間、排除しようと努めることにどうしても疑問を抱かずにはいられません。あまりにも身勝手ではないでしょうか。

「特定外来生物による生態系、人の生命・身体、農林水産業への被害」で人間以外に生態系への被害があることを認識していながら、「人間に害を与えるようになった瞬間」とするのは矛盾しています。おそらく次の話と関係している?

外来種の考え方 外来種が駆除対象になるかは侵略性次第、という話

> 在来種の保護のための駆除には一理ありますし、必ずしも悪いことではありません。それにより農家は助かり、生計を立てることができるでしょう。

論理破綻。在来種の保護のための駆除は「農家は助かり、生計を立てることができる」ことと無関係です。農家に関する話は「農林水産業への被害」の話に含まれ、別の話です。

最後の段の「自らの利益を追求する人」が誰でどんな利益かわからなかったのですが、農家のために駆除することを指していますか?

たとえば、「人の生命・身体」への被害はカミツキガメに噛まれたり、ヒアリに刺されるなどを指していますが、これは農家に関係なく「農林水産業への被害」でもありません。

ここは、生態系/人の生命・身体/農林水産業の“いずれか(複数の場合もある)”に被害を及ぼす、と並列に読むのが正しいです。

>しかし、今生きている生き物たちに少しでも思いを馳せたことはあるのでしょうか。

外来種問題の典型的な反応ですが、侵略的外来種によって殺される在来種に思いを馳せたことはあるのでしょうか?

そもそも、外来種の駆除が人間の都合なら、人間の活動で広まった外来種が既存の生態系を荒らしていることも、人間の都合です。

人間の活動が与えた被害を、人間の責任で回復する、これが外来種問題の本質です。自然に任せ「新たに生態系ができているのだから」などと放置することは、現状の被害を黙認・拡大することになります。

結論の主張が不明

>そういった人の陰に隠れて自らの利益を追求する人がいる

誰がどんな利益を得ているのか書かれていません。裏には真の黒幕が!みたいなふわふわした話ではなく、具体的に書いてください。

朝日新聞に連載されている「ドリトル先生 ガラパゴスを救う」を元に、「生態系の保全」ではなく”「人間の利益を追求する」ことが本来の目的に見えてなりません。”とし、”そういった人の陰に隠れて自らの利益を追求する人がいる”と断定していますが、仮定に仮定を重ねると、根拠が弱くなります。

正にそのガラパゴスで、外来種による被害が大きく駆除していることは、ご存知でしょうか?簡単に反証されることを根拠にするのは避けた方がよいでしょう。

“ゾウガメの激減に拍車をかけたのは、人とともに入った外来動物だ。野生化したヤギはゾウガメのエサとなる植物を食べ、ネズミは生まれたばかりの子ガメを襲った。”

asahi.com:王国復活へ人工増殖―ガラパゴス 「楽園」の光と影・1 – 地球環境

かつてリクイグアナの天敵だった野ブタは、自然保護プロジェクトの一環としてサンティアゴ島から駆除され、同島は2004年、野ブタの根絶を宣言していた。

ガラパゴス国立公園のホルヘ・キャリオン局長は、ツイッターでサンティアゴ島のリクイグアナ復活を紹介し、「ガラパゴスとエクアドルと世界にとって素晴らしいニュース」と伝えている。

CNN.co.jp : ガラパゴス・サンティアゴ島、約200年ぶりにリクイグアナが復活

まとめ

毎年多くの原稿を見ていますが、個人的には「特に」「非常に」「とても」「かなり」などの強調は、削るか根拠とセットで用います。飲食レビューで「とてもおいしい!」だけ書かれていたら、情報量がなく参考になりません。

今回の先方記事では“どうしても疑問を抱かずにはいられません。あまりにも身勝手ではないでしょうか。”と「身勝手だと思います」で済む話を3重4重にも強調しており、強烈な主張です。これを成立させるには「私はそう思う」以上の強力な根拠が必要です。

特に今回は国会で承認され社会的合意が取れている「外来生物法」に反対する意見ですから、過去の経緯の把握や、第三者が納得する論理の組み立てが必要でしょう。

また、「ザリガニで生態系の被害が出ているの?」はまずチェックする事項であって、終始駆除という手段(HOW)がどうか?の話であることに違和感があります。

結論からいうと、生態系保護のため外来種を駆除することはありますので、文字通りそう受け取っていただければと思います。生態系保護のため、という目的(WHY)が大事です。

生物多様性に興味を持っていただくのは良いことなので、新聞各社さまにおかれては、主張を裏付ける根拠の探し方、論理の組み立て方など、運営の役割を果たしていただければと思います。

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