タガメが小魚やカエルを捕食するのは当たり前という認識を覆す報告。ヨーロッパに生息するタガメLethocerus patruelisがカエルを捕食した記録が報告されました。ヨーロッパに生息するタガメはLethocerus patruelis1種のみで、カエルを捕食した事例は初めてです。
※冒頭の写真は日本のタガメであり、ヨーロッパのタガメではありません。
日本最大の水生昆虫タガメ。タガメの飼育方法や餌、交尾から繁殖、幼虫の育て方まで、タガメの飼育・繁殖方法についてはこちらの特集もご覧ください。
バルカン半島でLethocerus patruelisがカエルの仲間Pelophylax kurtmuelleriを捕食した記録
水生昆虫のタガメ亜科は、その大きな前脚で魚類、カメ、ヘビ、カエルなどの脊椎動物を捕らえる捕食者。タイワンタガメ属(Lethocerus)がカエルを捕食することはよくあるが、ヨーロッパではそうした事例は確認されていません(意外!)。
今回の事例では、2021年8月に中央ギリシャの水田でカエルの調査を行った際、タガメLethocerus patruelisの成虫がカエルを捕食した写真が記録されました。現地は気温33度、水温23.5度と日本の夏に近い気候でです。
世界のタガメとヨーロッパのタガメ
コオイムシ科(Heteroptera: Belostomatidae)は、世界最大の水生昆虫を含む、肉食の水生カメムシ。その中でタガメ亜科(subfamily Lethocerinae)は、BenacusとKirkaldyiとLethocerusの3属に分かれ、各成長段階で脊椎動物を餌とします。具体的には、魚類やカエル、オタマジャクシのほか、亀や蛇など大物を捕食した記録も。
タイワンタガメ属(Lethocerus属)は、22種に分かれ、その多くは熱帯、亜熱帯・温帯に生息します。ヨーロッパに1種、アジアに日本産タガメ(Kirkaldyia deyrolli)、タイワンタガメ(Lethocerus indicus)の2種しかいないように、タガメの多くの種はアメリカ大陸に分布しています。
タガメのLethocerus patruelisは、ヨーロッパ最大の水生昆虫。生息域は、主にバルカン半島(アルバニア,ボスニア,ブルガリア,クロアチア,モンテネグロ,ルーマニア,セルビア)で、最近はイタリアからも報告されています。ギリシャには全国的に生息し、河口域の三角州や、流れの緩やかな所で多く見られるとのこと。
ヨーロッパタガメ(Lethocerus patruelis)の特徴
ここまでのまとめ。タイワンタガメ属は世界に22種、うちヨーロッパにはLethocerus patruelisの一種のみ生息します。ヨーロッパで最大の水生昆虫でありながら、カエルを捕食していなかったが、今回初記録が出ました。初記録ということはメインの餌ではないのでしょう。
日本では、ヨーロッパにタガメがいることすらあまり認知されていないので、和名は決まっていません。インド・ミャンマーにいたる広域に生息するため、「ヨーロッパタガメ」といった呼び方は不適切そうです。
Lethocerus patruelisは、Lethocerus属によく見られる外観を持ち、体長はオスで6〜7cm、メスで7〜8cmと、東南アジアに個体数が多いタイワンタガメ(Lethocerus indicus)と、ほぼ同体格。Lethocerus patruelisの分布はバルカン半島からインド・ミャンマーにいたる広域です。ブルガリアの研究例によれば、最近バルカン半島から北上しつつあることが注目されているようです。
iNaturalistにおけるLethocerus patruelisの観察記録を見ると、バルカン半島南部の沿岸を中心に生息しているようです。