外来種が駆除対象になるかは侵略性次第、という話

外来種の考え方

評判が悪い某書籍の影響なのか、最近「は悪ではない」という主張を見かけます。TVで「は駆除対象」と簡略化した説明がされることに対する反発もあるのでしょう。

しかし現実には外来種のうち「生態系、人の生命・身体、農林水産業へ被害を及ぼす」侵略性がある種が「特定外来生物」に指定され、防除(駆除)が必要とされているわけですね。したがって、外来種は駆除不要!と主張するなら、侵略的外来種をどうするかという話に回答が必要です。

また、善悪で決めているわけではなく、害があるから駆除されています。侵略性の有無を区別せず「外来種は防除不要」とする主張は、既存の議論を踏まえていないか、侵略性が高くない外来種の例をもって防除不要とするもので、お気持ち的な主張と言えるでしょう。

こうした外来種問題の基礎は、関心があれば小一時間で調べられるので、それすらしていない時点で議論に値しません。

印旛沼水系で捕獲したカミツキガメ

在来種と外来種

いくつか用語が出てくるので環境庁の資料を用いながら解説していきます。

外来種とは、もともとその地域にいなかったのに、人間の活動によって他の地域から入ってきた生物のことを指します。荷物に紛れて広がる例もあり、「人間の活動」には意図的・非意図的は問いません。

学術的には、従来北海道にいなかったカブトムシアズマヒキガエルのように「国内外来種」という分類もありますが、環境省が定める「外来生物法」では国外由来種かつ明治以降に入ってきた種を対象にしています。

外来種予防三原則

たとえば、本州では普通種のヒキガエルが北海道では「本州から来たヒキガエルが北海道の両生類を殺す」といった事態を引き起こします。

このように外来種が侵入すると何が起きるのかはよくわからず、広がった後では遅い、ということがよくあります。そこで「外来種予防三原則」という考え方がされています。

結果的に生態系に影響が少ない外来種もいますが、被害例がある以上、予防的に対応した方がいいということですね。

  • 入れない
    悪影響を及ぼすおそれのある外来種を自然分布域から非分布域へ「入れない」
  • 捨てない
    飼養・栽培している外来種を適切に管理し、「捨てない」(逃がさない・放さない・逸出させないことを含む)
  • 拡げない
    既に野外にいる外来種を他地域に「拡げない」(増やさないことを含む)

侵略性の有無が大事!侵略的外来種と特定外来生物

自然保護の現場で、外来種はなんでも駆除しろ!と言っている人はあまりいません。日本に生息する海外由来の外来種は2000種以上とされていて、現実的ではないからです。外来種のうち、駆除対象になるのは侵略的外来種です。

外来種のなかには、既存の生態系に馴染むものもありますが、に影響を与える種を「侵略的外来種」と呼び、国際自然保護連合(IUCN)では、世界の野生生物の3大絶滅要因のひとつに位置づけているほどです。

「世界の侵略的外来種ワースト100」と特定外来生物との対応関係は環境省の資料で整理されています。

日本では、侵略的外来種のうち「生態的被害」「人の生命・身体への被害」「農林水産業への被害」が見られる種を、外来生物法で防除対象となる「特定外来生物」に指定しています。

「世界の侵略的外来種ワースト100」に含まれるイエネコやコイは対象外ですが、飼っている人が多いなどの社会的影響を考慮したものです。

蔓延してしまった種も取り扱いが難しく、ミドリガメやアメリカは特定外来生物の要件を満たしているものの、指定外となっています。

ミドリガメの輸入規制 5年後めど、生態系に悪影響: 日本経済新聞

2020年11月2日から外来全種が特定外来生物に指定され、輸入販売が禁止されましたが、本命たるアメリカザリガニだけ除外されています。

外来ザリガニの指定理由は以下の通りです。
の切断や水生動植物の摂食による水生生物群集への影響
・ザリガニペスト(アファノマイセス菌)や白斑病の運搬による、日本固有の絶滅危惧種のニホンザリガニやその他エビ目への影響
・すみかやエサなどの競合によるニホンザリガニへの影響

外来ザリガニ | 日本の外来種対策 | 外来生物法

アメリカザリガニは、生態系に大きな影響を及ぼすことが指摘されており、2015年に環境省と農林水産省が策定した「生態系被害防止外来種リスト」において「緊急対策外来種」に選定されています。

界隈では、アメリカザリガニが侵入して数年でシャープモドキ生息地が壊滅した事例が有名です。

アメリカザリガニ防除と昆虫類の保全(苅部)

このようにアメリカザリガニの侵略性は認識されているのですが、以下の理由で除外されています。蔓延するまで放っておくと、こういう弊害も出るわけですね。

アメリカザリガニについては、生態的影響(あるいは生態的特性)としては特定外来生物に指定する要件を満たしているものの、現行法下において指定した場合、個体の大量遺棄が懸念されるなど、社会的な混乱を引き起こすことが懸念されるため、今回の指定は見送ることとされた。

https://www.env.go.jp/nature/intro/4document/data/sentei/12/01_zentai_12_siryo1.pdf

なお、特定外来生物は、輸入、飼養・栽培、野外への放出等が原則として禁止されるとともに、特に防除が推進されます。原則とは、申請して許可を得た研究者などを除いて、ということです。

特定外来生物の例

数が多いので、代表的な種だけ記載します。

  • ヌートリア
  • エゾリス
  • アライグマ
  • カミツキガメ
  • グリーンアノール
  • ウシガエル
  • カダヤシ
  • ブルーギル
  • コクチバス/オオクチバス
  • アルゼンチンアリ/ヒアリ
  • アメリカザリガニを除く外来ザリガニ

外来種については既存の議論を踏まえた主張が必要

このように、外来種にも侵略性の有無で区別があり、防除の対象となるのは侵略的外来種です。さらに厳密には外来生物法で「特定外来生物」という区分があります。

外来種の考え方

外来種は善悪ではなく、害があるかで区別され、侵略性が高い種は防除対象となる、という建て付けが現在の日本社会の整理です。ですから、「外来生物は悪か?」という話は、そもそも論の立て方がおかしい。

侵略性の有無を区別せず「外来種は防除不要」とする主張は、既存の議論を踏まえていないか、侵略性が高くない外来種の例をもって防除不要とするもので、お気持ち的な主張と言えるでしょう。

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