2020年にタガメ、トウキョウサンショウウオ、カワバタモロコの3種が初指定された種の保存法「特定第二種」。2022年の指定に向けた委員会で、サンショウウオ数十種が候補として挙がっていることがわかりました。サンショウウオ類はかねてより産卵期の成体や卵塊の乱獲及びヤフオク等ネットオークションでの売買が問題視され、妥当な流れでしょう。
2022年特定第二種指定候補に多くの小型サンショウウオ類が登場
種の保存法の「国内希少野生動植物種」「特定第二種」の指定は、年末開催の希少野生動植物種専門家科学委員会で検討され、翌年初には規制開始されるのが通例です。駆け込み的な捕獲・売買が予想されますが、寒い時期に規制開始することでその影響を抑えられます。
今年の会議資料によれば、一気に26種の小型サンショウウオが「国内希少野生動植物種」「特定第二種」候補になっています。移動能力が低く地域ごとに進化しがちなサンショウウオは近年、改めて複数種に分類されています。
ハクバサンショウウオ、アカイシサンショウウオ、ツルギサンショウウオについては国内希少野生動植物種に指定されることが予想されます。
- 1 ) Hynobius abuensis ( アブサンショウウオ )
- 2 ) Hynobius akiensis ( アキサンショウウオ )
- 3 ) Hynobius bakan ( ヤマグチサンショウウオ )
- 4 ) Hynobius boulengeri ( オオダイガハラサンショウウオ )
- 5 ) Hynobius dunni ( オオイタサンショウウオ )
- 6 ) Hynobius fossigenus ( ヒガシヒダサンショウウオ )
- 7 ) Hynobius guttatus ( マホロバサンショウウオ )
- 8 ) Hynobius hidamontanus ( ハクバサンショウウオ )
- 9 ) Hynobius ikioi ( ベッコウサンショウウオ )
- 10) Hynobius iwami ( イワミサンショウウオ )
- 11) Hynobius katoi ( アカイシサンショウウオ )
- 12) Hynobius kuishiensis ( イヨシマサンショウウオ )
- 13) Hynobius kunibiki ( イズモサンショウウオ )
- 14) Hynobius naevius ( ブチサンショウウオ )
- 15) Hynobius nebulosus ( カスミサンショウウオ )
- 16) Hynobius okiensis ( オキサンショウウオ )
- 17) Hynobius oyamai ( チクシブチサンショウウオ )
- 18) Hynobius sematonotos ( チュウゴクブチサンショウウオ )
- 19) Hynobius setoi ( サンインサンショウウオ )
- 20) Hynobius setouchi ( セトウチサンショウウオ )
- 21) Hynobius stejnegeri ( コガタブチサンショウウオ )
- 22) Hynobius tsurugiensis ( ツルギサンショウウオ )
- 23) Hynobius utsunomiyaorum ( ヒバサンショウウオ )
- 24) Hynobius vandenburghi ( ヤマトサンショウウオ )
- 25) Onychodactylus kinneburi ( シコクハコネサンショウウオ )
- 26) Salamandrella keyserlingii ( キタサンショウウオ )
近年ヤフオクで繁殖期に集まる成体や卵塊を大量出品する人が現れていますが、サンショウウオ類は成熟に数年かかり年一回しか産卵しないなど、乱獲に弱い生態を持っています。
ですから、特定第二種指定によりこれらの売買を止めることで減少要因の一つを確実に止めることができます。また、指定前後の流通量は定量的に示せることから、効果測定もしやすいはずです。
サンショウウオ乱獲を危惧するTweet郡
種の保存法「特定第二種」で注目される2つの観点
種の保存法「特定第二種」は、研究や趣味の飼育はOKな一方、輸出入・売買などを禁止することで乱獲を止める制度です。研究目的でも調査・飼育するのに許可が必要など、使い勝手が悪かった既存の「国内希少野生動植物種」の課題も解消しています。
種の保存法「特定第二種」の動向については、大きく2つの観点から注目されていました。まず新制度ということで初指定種で有効に機能したかどうか。また、今後の指定ペースがどうか。
特定第二種については2020年末の委員会では動きがなく、これは規制が始まって1年経っていないことから、初指定種の評価をもって以降の指定を進めていく考えであることが示されています。
それから2030年までに700種を指定ということで年40-50種ペースになるわけですが、これはレッドリストに掲載されいている3600弱種に対し国内希少野生動植物種が89種(当時)なのは少なすぎるのでは、という指摘から来ているものです。
国内希少野生動植物種は捕獲・採取・殺傷等が禁止される強力な規制です。ガンガン里山種が指定されていくと、社会的な影響も大きくなると予想されます。現在でも希少種がいる生息地が開発できてしまう課題ありますが、農作業等にともなって日常的に国内希少野生動植物種が殺傷される…ということになると、規制が有名無実化してしまうでしょう。
ですから国内希少野生動植物種より使いやすい特定第二種の指定数が増えるのでは、という観測があったわけです。
特に特定第二種国内希少野生動植物種につきましては、昨年度3種を先行指定したところですが、今年度は指定をしておりません。今年度は先行指定した3種のフォローアップを行いまして、どのように特定第二種の保全を進めていくかを含めまして、次年度から本格的に指定の検討を進めてまいりたいと考えております。また来年度の科学委員会で皆様から御意見をいただければと考えております。
また、最後に米印で書かせていただいておりますけれども、平成29年の法改正におきまして、国会の附帯決議におきまして、2030年までに700種を指定することを求められております。こういったことも踏まえまして、今後も種指定につきましては、保全の在り方も含めてどのような種を保全していくのか、指定していくのか、引き続き検討してまいりたいと考えております。
希少野生動植物種専門家科学委員会「議事録(2020/12)」
種の保存法「特定第二種」制度は有効に機能しそう
まず新制度が機能したかどうか。2020年にタガメ、トウキョウサンショウウオ、カワバタモロコの3種が初指定されましたが、2021年12月8日の委員会資料では、全体に当初の狙い通りの効果を挙げていると評価されています(太字は筆者)。
令和元年度に特定第二種に指定された3種(トウキョウサンショウウオ、カワバタモロコ、タガメ)についてヒアリングや流通状況調査等を元に指定後の効果や課題について検証した。
1.指定後の状況変化、効果等
希少野生動植物種専門家科学委員会「資料(2021/12)」
○ 販売頒布目的の捕獲や流通の停止、抑止効果
・ 指定後の生息地における違法捕獲、大量捕獲等は確認されていない(3種共通)。
・ 指定以前にはインターネットオークション等での流通が多く確認されていたが、指定後の環境省による調査では流通は確認されていない(トウキョウサンショウウオ)。
・ 指定後の違法取引の摘発が1件あった(トウキョウサンショウウオ)。
・ 特定第二種に指定されたことにより販売目的の捕獲等を規制することができるため、保全の現場において違法捕獲を発見した場合の抑止力になりうるとの意見もあった。
→指定以降、生息地における大量捕獲は確認されておらず、違法取引についても摘発の体制が機能しており、指定による販売の停止が捕獲の抑止力となっていることが確認された。
流通を止めることには成功したが、生息地をどう保全していくかについては今後の課題としています。専門家の委員会ですから当然ですが、問題意識は妥当かと思います。
- 特定第二種指定後の保全活動について生息環境整備やモニタリングの継続等、長期的に活動を継続できるような支援や仕組み作りが必要(3種共通)。
- 保全活動を幅広く展開するためには、個々の事例を他の地域での活動に生かすため、保全の手引の作成に加え、特定第二種の保全関係者の間で情報共有し、意見交換できる仕組みが必要(3種共通)。
今後の特定第二種指定数の方針について
2021年の特定第二種の候補は、小型サンショウウオだけで20数種に達したものの、昆虫は1匹もいませんでした。これをどう見るかですが、全体で年40-50種ペースという目標を満たしてしまったから見方がひとつ。それから、初回は確実に成果が出る3種に絞った感ありますが、今回候補となっている小型サンショウウオも指定してよかったはずで、まずはそこまで持っていきたかったのかもしれません。
2022年に小型サンショウウオ類が特定第二種指定された場合の影響
最後に。一部のサンショウウオは国内希少野生動植物種に指定される見込みで「触れない種」になってしまいますが、特定第二種の方は、一般人には大きな影響はないでしょう。
飼育したい人は自分で見つけるか、飼育者間の知人を介する必要があります。小型サンショウウオ類は元々飼育難易度があり、そのぐらいのハードルは妥当かと思います。