日本最大の水生昆虫タガメをはじめ、水生昆虫絶滅危惧種の現状について確認していきます。水生昆虫は開発や農薬で1970年代に激減した後、ザリガニ等侵略的外来種の侵入によって更に数を減らしています。水生昆虫は各県で絶滅危惧種になっているほか、特にタガメとゲンゴロウは都市部で「絶滅」判定された状況です。
大型水生昆虫は全国的に減少傾向で、その多くが絶滅危惧種になっている
タガメやゲンゴロウに代表される日本の水生昆虫。 水生昆虫の大型種は、その多くが絶滅危惧種判定されています。戦後に育った団塊世代の方たちは、「タガメやゲンゴロウなんてその辺にいたもんだ」という時代を経験していて、その頃までは実際都市近郊でもタガメが見られたそうです。
水生昆虫が大きく減少した原因として、農薬・開発・外来種が挙げられます。
戦後普及した農薬は、水生昆虫を一気に減らしました。近代の化学農薬がない時代どうしていたか。江戸時代には水田に鯨油を注ぎ、はたき落としたウンカを駆除した例や「虫追い」行事などの祈祷に頼っていました。明治大正時代には除虫菊などの天然由来の殺虫剤なども登場しています。
化学農薬が普及したのは第二次世界大戦後で、例えばタガメもウンカと同じカメムシの仲間ですから、水生昆虫にもバッチリ効いてしまい、1970年代には各地で地域絶滅が報告されるなど、急速に減少しました。もちろん、農薬の普及は戦後の食糧不足の改善に貢献しているわけで、その影でこういう影響もあった、という話です。
こうして農薬が流入する平野部で大幅に減少した水生昆虫は、丘陵部や山間部で生き残りました。その後、1990年頃まで続いたバブル期には多くのゴルフ場やリゾート開発が行われ、さらに生息地が失われました。水田の「ほ場整備」もゲンゴロウ類の減少に影響を与えています。ゲンゴロウは土中で蛹になりますが、水路の岸辺がコンクリ水路になると繁殖できないからです。
開発や農薬を逃れ最後に残った生息地も、外来種に荒らされています。水生昆虫に影響を与えている侵略的外来種は、鯉やバス、ウシガエル、アメリカザリガニなどです。特にアメリカザリガニは、水草を切って餌の隠れ家をなくす環境改変能力を持ち、複数の希少種生息地を壊滅させています。水草がない濁った水面は”ザリ色の水”と呼ばれ、忌み嫌われる存在です。
アメリカザリガニは、2023年から「特定外来生物」として売買・放流等が禁止される予定です。
最後に耕作放棄も、水生昆虫の生息地が失われる原因となっています。過疎化や農家の高齢化・後継者不足によって、機械化しづらい中山間地は耕作放棄されやすいからです。
水生昆虫の絶滅危惧種判定状況
絶滅危惧種については、国や各県がそれぞれ、絶滅危惧種を掲載したレッドリスト(RL)を用意しています。絶滅危惧のカテゴリーは「準絶滅危惧」であれば個体数も多く比較的見られますが、絶滅危惧II類→絶滅危惧IB類→絶滅危惧IA類と絶滅危惧の危急度が上がっていきます。
ここでは、主要な水生昆虫について、国のレッドリストの絶滅危惧種判定を見ていきましょう。絶滅危惧◯◯類となっているものは、一般に「絶滅危惧種」と呼んでOKです。大型種を中心に多くの水生昆虫が絶滅危惧種になっています。
特にミズスマシでは、多くの種が絶滅危惧種と全国的にレアな存在です。
絶滅危惧種判定されていないもののなかでは、タイコウチは近年、浅い水辺の消失にともない激減している印象です。ミズカマキリは飛翔傾向も強く、都市近郊でも比較的見る機会があります。
日本最大の水生昆虫タガメも絶滅危惧種
日本最大の水生昆虫タガメも、絶滅危惧種です。タガメの絶滅危惧II類というカテゴリーは、「絶滅の危険が増大している種」を意味します。タガメは北海道から九州まで全国的に分布しますが、東京都・神奈川県等絶滅した県も多く2020年現在19道府県(人為的移入の北海道は除く)に分布しています。
都市部で「絶滅危惧種」扱いの水生昆虫
東京や大阪などの人口密集地は、宅地開発に伴い田んぼが激減あるいはほとんどなくなっています。平野部の多くはバスやアメリカザリガニが侵入し、水生昆虫の生息には適しません。それに伴い、水生昆虫も激減あるいは絶滅判定されています。
例えば、水生昆虫の代表種タガメは、東京都・神奈川県では絶滅しています。この絶滅判定には注意が必要で、東京都の絶滅判定はゲンゴロウで2010年、ガムシで2021年ですが、数十年記録がない状態になって初めて「絶滅」認定されるため、最後の記録は1970年代のものだったりします。
一方、東京都で比較的普通に見られる水生昆虫もいます。アメンボや逆さまに泳ぐマツモムシは普通種であり、ヒメゲンゴロウやハイイロゲンゴロウも比較的普通に見られます。小学校のプール掃除では数千匹のヤゴが救出されたり、ミズカマキリが見つかることもあります。