タガメは種の保存法「特大第二種」に指定され、新たな親を増やすことが困難です。ところが、タガメの近親交配を続けると、産卵数が減るという情報があります。タガメを累代するにあたって避けられない課題です。将来的なことを考え、下調べしてみました。
タガメの繁殖力
現在、我が家はオス1メス2 から始まり、2匹のメスが交互に産卵し5卵塊目に達しています。卵塊あたり卵120個ちかく。一匹のメスが2-3回産卵するとして数百匹幼虫が誕生することになります。ゲンゴロウは20-30匹なのでだいぶ産卵数が多い印象です。
私の手元では孵化した80匹の幼虫が4令になりましたが、自然界ではタイコウチやコオイムシ、鳥などにどんどん食べられ、親になれるのは数%なのでしょう。
タガメは卵のサイズの制約から、小さく生まれどんどん大きくなる成長戦略をとっているようです。たとえば、1令は数日で2令になります。体長もコオイムシが1令ごとに125%大きくなるのに対し、タガメでは145%大きくなります。
こうした成長速度の違いは、タガメ1令幼虫がいきなり体長2倍以上のメダカやオタマジャクシを捕らえるなど、効率のよい栄養補給で実現されているようです。
タガメの近親交配による累代リスクとは
数世代に渡り繁殖させることを「累代」と言いますが、タガメを累代するとき課題となるのが、数世代で繁殖力が落ちて卵を産まなくなる、という説です。
タガメの場合、1卵塊から大量に子どもが生まれるため、最初の1卵塊しか育てないと、血縁が偏りがちです。これがゲンゴロウであれば、複数の親から数十の子どもが生まれ、交尾も盛んなので複数の血が混じりやすい繁殖形態という違いがあります。
近親交配を続けると、劣性遺伝(最近は「潜性」と呼ぶ)になりやすいことは、欧州王族の例などで知られていますが、タガメの場合はどうでしょうか。
累代飼育を続けたタガメは繁殖しなくなるとした例
書籍「タガメとゲンゴロウの仲間たち」著者の市川憲平さんは元姫路市立水族館館長で、タガメの保護活動でも知られています。
琵琶湖博物館では他府県産の個体を展示してきましたが、累代飼育を長く続けると繁殖しなくなるため、長期間展示を続けるのは困難だったそうです。産地が近くにない施設では新しい血を頻繁に入れることもかなわず、やむなく展示を中止することにしたのです。
「タガメとゲンゴロウの仲間たち(市川 憲平)」のまえがきより
多摩動物園でのタガメ累代事例
2008年の東京ズーネットの投稿によると、多摩動物公園の昆虫園で展示しているタガメは累代繁殖とのこと。飼育規模は不明。
国内最大の水生昆虫であるタガメも採集できればよいのですが、タガメはゲンゴロウなどと生息地が異なるため、今回の採集地では得ることができません。当園ではタガメは採集せずに累代繁殖させて展示数を保っています。
多摩動物公園のブログより
タガメの近親交配を気にしている例
阿部宣男氏といえば、長く「板橋区ホタル生態環境館」にいた方ですね。同館の問題については割愛しますが、ナノ銀放射能除染を主張するなど、トンデモ系の方だな、という印象。
板橋区ホタル生態環境館 – Togetter
この個体のルーツは福島県です。私が板橋区立淡水魚水族館勤務時からですので20年以上世代交代を繰り返しました。が、近親交配を避けるために3年に一度は採取地福島に雌雄3~5匹持参し、今尚自生している箇所に放し、其所に生息している同じ遺伝子を持つ個体を施設に連れて来ます。絶滅の一途を辿っているタガメですが、母の故郷ではしっかり根付いています。
阿部宣男氏のブログより
18年もタガメ累代している事例
書籍も出している昆虫写真家・森上信夫氏は18年もタガメ累代飼育しているそうで、2015年に産卵数減少が見られたそうです。18年も飼っているとむしろ累代に強い、と言えそうですがその後が気になるところです。
「水生昆虫の王者」と言われるタガメを、18年間にもわたり、累代飼育しています。(中略)
これまでは、累代飼育(=近親結婚)の弊害をあまり感じることもなく来ましたが、去年の夏は、雌雄を一緒にしても産卵まで至らないケースが多く、例年なら正常産卵が10回は見られる(飼い切れないので、10回ぐらいで止めています)のに、わずか3回しか正常な卵塊を得ることができませんでした。
去年がたまたま「不作」の年であったということであればよいのですが、産卵回数が3回では、実験している余裕などありません。
初撮りはタガメ – 昆虫写真家・森上信夫の ときどきブログ
結論として、タガメが近親交配に弱いかはよくわからない
タガメが近親交配に弱いかは、あまりサンプルがなく、よくわかりませんでした。一般論としては、少数の親で最初に劣勢遺伝子を持つ親がいれば、数世代で致命的になる可能性もあるし、初代の親同士が健康なら、累代でも問題ないでしょう。
オスが卵を背負うオオコオイムシでは、1個産卵するごとに交尾しますが、それでも子どものDNAを調べた所、1/3は別のオスの遺伝子だったとのことです。私の観察では、オスの背中には複数のメスが産んでいて、それを繰り返すことでメインで産むメス、余った背中に産むメスで1/3、という比率になるのではと思います。
参考)オオコオイムシの繁殖戦略
生息密度が低いタガメでは、複数のオスと交尾する機会が少なく、他種との繁殖形態の差が影響している影響はあるかもしれません。