野生のタガメを毎年観察している @gengo6com が、タガメの食べ物について解説します。タガメは小魚やカエルを食べ物にしていますが、飼育下ではドジョウや金魚を与えます。また、幼虫時代の食べ物はオタマジャクシに依存しています。野生タガメの捕食写真もどうぞ。
日本最大の水生昆虫タガメ。タガメの飼育方法や餌、交尾から繁殖、幼虫の育て方まで、タガメの飼育・繁殖方法についてはこちらの特集もご覧ください。
タガメの「食べ物」は小魚やカエル
タガメは食べ物として金魚やドジョウを餌に与えることで飼育できます。タガメは農薬に極端に弱いことが知られています。タガメは農薬に汚染された餌経由でも死んでしまうので、養殖であることがはっきりしている金魚の方が安全なのです。
一方、野生のタガメは食べ物として小魚やカエルを食べています。カエルの食べ残しが浮いていたらタガメがいる目印になるとも言われています。下の写真は、野外でカエルを捕食しているタガメを観察したときのものです。
日本最大の水生昆虫タガメは、蛇や亀などの捕食事例もある
NHKのTV番組「ダーウィンが来た!」2017年6月25日放送の「毒ヘビを狩る!田んぼの王者タガメ」でタガメ成虫がマムシを狩る様子が撮影されています。タガメによるヘビの捕食は色々目撃されていて、「野外におけるタガメによるヘビ類の摂食例(森・大庭,2004)」や「野外におけるタガメによるニホンマムシの捕食事例(大庭伸也,2012)」によれば、以下の報告があります。それぞれ、リンク先に実際の画像・動画があります。
- 2002 ヤマカガシ幼体を捕食するタガメの観察例
- 2003 ヒバカリを捕食するタガメの観察例
- 2011 マムシを捕食するタガメの観察例
このほか、亀や鯉など自分より数倍大きな獲物を捕らえた事例が報告されています。
タガメ幼虫の食べ物はメダカやオタマジャクシ
日本産タガメについては、長崎大学の大庭伸也先生が多くの論文を発表しています。大庭伸也先生の学位論文は正にタガメ幼虫の食べ物に関する内容。タガメ幼虫がオタマジャクシを主な餌にしていることを明らかにしています。
- タガメの若齢幼虫(1〜3齢)とオタマジャクシの発生消長は同期している
- タガメの若齢幼虫は主にオタマジャクシを食べ物にしている
- タガメの老齢幼虫(4〜5齢)ではオタマジャクシ以外も食べるようになる
- オタマジャクシを与えた幼虫は特に若齢幼虫で他の餌を与えた場合より成長が早い
これらの事実から、論文の結論として、タガメ幼虫はオタマジャクシに合わせて発生し、メインの食べ物とすることで幼虫期間を短縮しているとしています。
この論文のユニークなところは、タガメ幼虫は他種より前脚の爪の湾曲度が大きく、自分より大きな食べ物を取ることに適していること、食べ物が同じタイコウチとの関係についても論じた点でしょう。日本語のみですが、論文はこちら。
成長すれば水辺の王者となるタガメも、幼虫時代は狩られる側である
成虫になれば5-7cmと日本最大の水生昆虫タガメですが、幼虫時代はタイコウチやサギなど多くの天敵がいます。タガメは一回の産卵で90個近い卵を産みますが、そのなかで成虫になるのは10匹未満でしょう。こうした状況下で、タガメ幼虫はできるだけ早く襲われない大きさに成長するため、オタマジャクシに最適化したライフサイクルを発展させてきたと考えられます。
コオイムシなど類似種と比べ、タガメは幼虫時代から大きな前脚を持ち、自分の2-3倍あるオタマジャクシやメダカを果敢に捕らえます。大きな獲物を捕らえることにはリスクもありますが、早く成長するためにどんどん栄養を取らなければという切実な目的があるのでした。