各種報道によれば、アメリカザリガニ・ミシシッピアカミミガメ(ミドリガメ)規制を念頭に、外来生物法改正の検討が始まったと伝えられています。2021年7月6日の朝日新聞の記事が先行しましたが、後追い記事のなかにはわかってない感ある記事も散見されます。今回は、日テレの「アメリカザリガニ 今後“釣り禁止”も…」記事を例に、ザリガニが釣り禁止にならない理由を説明します。
追記:2023年からアメリカザリガニが特定外来生物に指定されることが確定
2022年3月1日、政府は外来生物法を一部改正する議案を閣議決定しました。国会審議と法改正を経て、来年2023年にはアメリカザリガニが特定外来生物に指定されます。
アメリカザリガニ・ミシシッピアカミミガメ(ミドリガメ)問題とは
アメリカザリガニ・ミシシッピアカミミガメ問題とは、両種が法規制される「特定外来生物」指定要件を満たしながら、既存法制で対応できないため、指定が見送られてきたことを指します。
生態的影響(あるいは生態的特性)としては特定外来生物に指定する要件を満たしているものの、現行法下において指定した場合、飼育個体の大量遺棄が懸念されるなど、社会的な混乱を引き起こすことが懸念されるため、今回の指定は見送ることが適当とされた。
第 12 回特定外来生物等専門家会合議論の結果(2020)
「特定外来生物」に指定されると、捕獲後の移動・飼育・販売・譲渡・放流等が禁止され、また防除も行われます。ザリガニやミドリガメの場合、「特定外来生物」指定すると飼育禁止になることがハードルとなって、既存法制では対応できず棚上げになってきたわけです。
しかし、被害が大きすぎて規制できないうのも変な話で、各所で規制方法が検討されてきました。
今回改めてニュースになったポイントは、外来生物法を改正し「特定外来生物」に飼育可だが輸入・売買・譲渡・放流禁止になる新カテゴリーを新設する方向性が打ち出され、棚上げ状態を脱した所にあります。
生態系への影響が深刻な外来種のアメリカザリガニとアカミミガメ(ミドリガメ)について、環境省は法令で定める特定外来生物に指定し、野外で繁殖しないよう規制する方向で検討を始めた。特定外来生物に新たな区分を設けて、ペットとして飼うことは認めたうえで、輸入や販売、野外に放出することを禁止する。
アメリカザリガニ、特定外来生物に指定へ 放出禁止に:朝日新聞デジタル(2021/7/6)
なお、2020年にはアメリカザリガニを除く外来ザリガニ全種が特定外来生物に指定されましたが、これは1匹で繁殖できる(=単為生殖)ミステリークレイフィッシュという外来ザリガニが流通し、今なら輸入禁止による対策が有効と判断されたためです。
日テレ「ザリガニ釣り禁止」報道の“わかってない”感
本件の報道では朝日新聞が先行し、各社から後追い記事が出ています。後追い側は予備知識がないのか、微妙な記事が散見されます。
- 2021/07/06 アメリカザリガニ、特定外来生物に指定へ 放出禁止に:朝日新聞デジタル
- 2021/07/07 アメリカザリガニも指定へ 特定外来生物、環境省検討:東京新聞 TOKYO Web
- 2021/07/07 アメリカザリガニに規制へ 野外放出は禁止、飼育は今後議論(FNNプライムオンライン)
- 2021/07/15アメリカザリガニとミドリガメ、販売や放流を禁止へ…環境省が検討 : 科学・IT : ニュース : 読売新聞オンライン
環境省の専門家会議は、アメリカザリガニを特定外来生物に指定し、野外での繁殖を規制する方向で検討を進めている。
輸入や販売、野外への放出を禁じる一方で、ペットとしての飼育については、今後、さらに議論を進めることにしている。
アメリカザリガニに規制へ 野外放出は禁止、飼育は今後議論(FNNプライムオンライン)
FNNの「野外での繁殖を規制する」も微妙な言い回しですが意味はわかるのでスルーして、「ペットとしての飼育については、今後、さらに議論を進める」では、飼育が禁止になるようにも読め、伝わりません。「ペットとしての飼育を可能にするが、社会的混乱を避けるため、その詳細は今後さらに議論をすすめる」あたりが適当でしょう。
子どもたちが池や用水路で真っ赤なザリガニを釣る姿が、見られなくなるかもしれません。生態系に深刻な影響を及ぼしているアメリカザリガニについて、環境省は特定外来生物への指定を含め、規制を検討しています。
アメリカザリガニ 今後“釣り禁止”も…|日テレNEWS24
この日テレの見出しは、全然わかっていません。私も原稿見る立場の人間ですが、新人がこの原稿持ってきたら「外来種問題勉強し直せ」と差し戻すと思います。
特定外来生物に指定されることで「釣り禁止」になるなら、既に指定種であるバス釣りも禁止になってしまいます。バス釣りが禁止になるなら、ザリガニどころではない社会問題です。ですから、外来種問題の基礎知識がある人ならこういう見出しは付けません。
規制された場合の身近な影響の例としてわかりやすいという誘惑はわかりますが、外来種問題わかっていません!と宣言してしまう話なので、メディアの方は今後気をつけてください。
特定外来生物の規制は、駆除のため捕まえても違法、混獲即違法となることを避けるため、その場でリリースすればOK、という建て付けになっていて、その代わり生きたままの移動をNGにしています。特定外来生物のバス釣りが行われているのも、その場でキャッチ&リリースすればOKだからです。
※自治体によっては、独自にキャッチ&リリースも規制しています。
※放流は当然、NGです。生きたままの移動、放流と二重に違反しています。
- 外来種問題がわかっていないデスクがタイトルを付けた
- 書いた記者はわかっていたが、押し切られた
あたりが考えられますが、その辺りは内部事情なので、我々としては出てきたもので判断するしかありません。
お菓子の景品にミドリガメを配るキャンペーンがきっかけでブームが起きた
半世紀以上前、1966年に大手お菓子メーカーがお菓子の景品に「アマゾンのミドリガメあげます!」というキャンペーンを行い、これが話題となり日本にミドリガメブームが起きました。環境省資料にもそう書かれていますが、具体的な経緯を調べた記事は以下のとおりです。
外来種問題とは
いわゆる外来種問題とは、元々その地域にいなかった生物が人の活動に伴い移入・拡散して、生態系 / 人の生命・身体 / 農林水産業に被害を与える種が出ている問題のことです。
「外来種」自体は数千種いて無害な生物も多いのですが、ヒアリやカミツキガメのように人に危害を加えたり、アメリカザリガニやブラックバスのように生態系を荒らしてしまう種を「侵略的外来種」と呼び、その一部は外来生物法の「特定外来生物」で法規制されています。
つまり、外来種問題とは被害が大きく対策が必要な侵略的外来種をどうするか、という問題なのです。また、移入拡散してから被害があることがわかっても手遅れになることから、「入れない・捨てない・拡げない」という外来種被害予防三原則も提唱されています。