アメリカザリガニ・ミドリガメ規制を念頭に「特定外来生物」に飼育可の新カテゴリーを設ける法改正について解説します

ザリガニのプラモデル

法規制されていない問題の二大巨頭アメリカ・ミドリガメの法規制に向け、動きがありました。専門家会議がアメリカザリガニ・ミドリガメ規制を念頭に、法改正による“規制の仕組み”を提言したもので、具体的には種の保存法「特定第二種」の外来生物法版的なものが想定されています。この経緯について、詳しく解説します。

アメリカザリガニは「特定外来生物」として規制される!

2022年3月1日、外来生物法の改正案が閣議決定され、アメリカザリガニとの規制内容が明らかになりました。予想されていた新制度ではなく、政令指定種に・譲渡等の除外を設ける運用で、大枠としては「特定外来生物」として管理する方針です。

結論としては、アメリカザリガニは来年2023年から特定外来生物として規制されます。※2022年3月1日追記

アメリカザリガニ・ミドリガメに“規制の仕組み必要”提言まとまる

2021年8月3日、環境省の「外来生物対策のあり方検討会」は専門家会議を開き、「外来生物対策の今後のあり方に関する提言」をまとめました。その内容は、一言でまとめればアメリカザリガニ・ミドリガメ(ミシシッピアカミミガメ)について、法改正を視野に規制の必要がある、としたものです。毎日新聞によれば、来年の通常国会での外来生物法改正案提出も視野に、具体案を中央環境審議会に諮問するとしていて、具体的な日程も出てきています。

アメリカザリガニ・ミドリガメの法規制は、2004年の外来生物法成立以来の懸案であり、とうとう具体的に動き出したことになります。それぞれの種については、以下記事で解説しています。

特定外来生物に指定された場合禁止される行為とは

カミツキガメ
カミツキガメ

前提知識として「特定外来生物」とはなにか、という話。ご存じの方は飛ばしてください。

まず自然保護の現場で、外来種はなんでも駆除しろ!と言っている人はほぼいません。日本に生息する海外由来の外来種は2000種以上とされていて、現実的ではないからです。外来種のうち、駆除対象になるのは侵略的外来種です。

外来種のなかには既存の生態系に馴染むものもありますが、に影響を与える種を「侵略的外来種」と呼びます。侵略的外来種のうち「生態的被害」「人の生命・身体への被害」「農林水産業への被害」が見られる種を、外来生物法で規制対象となる「特定外来生物」に指定しています。

特定外来生物に指定されている有名種は、ヒアリ・バス・ブルーギル・カミツキガメ・アライグマなど。

「特定外来生物」に指定された種で原則禁止される行為は以下のとおりです。「原則」とは許可が必要ということで、自己判断では許されません。

  • 飼育・栽培・運搬(生きたまま移動させる)・保管・輸入・放出(放流)・販売・譲渡

特定外来生物に新たに指定された種が出た場合、既存飼育個体については許可を受けた上で飼い続けられます。しかし、逸出を防ぐ飼育環境があるかなど詳細に記載した申請が必要で、はっきり言って万人向けでありません。

今回話題になっているミシシッピアカミミガメやアメリカザリガニなどは、ほかの侵略的外来種と異なり飼育個体が極端に多いという特徴があります。そうすると、特定外来生物指定時に大量遺棄が起きる可能性があり、これが生態系への被害的には特定外来生物の要件を満たしながら、アメリカザリガニが指定されない理由となっていました。

最近、河川にも住めるコクチバスの密放流が問題となっています。これは、生きたまま移動する「運搬」と「放流」で二重に違反する行為。「捕獲」や「その場でリリース」はOKで「生きたまま移動(〆ればOK)」以降がNGとなっている理由は、混獲・捕獲即違法となると釣りもできなくなるためですが、違法行為が蔓延すると、より強い規制がかかる可能性が高まります。

出典:環境省資料

アメリカザリガニ・ミドリガメの「特定外来生物」指定時に懸念されていた“社会的混乱”とは

外来ザリガニすべてが無規制ではなく、単為生殖するミステリークレイフィッシュを念頭に「アメリカザリガニを除く外来ザリガニ」が2020年特定外来生物に指定されています。ここでも「アメリカザリガニを除く」となっているように、アメリカザリガニ・ミドリガメ(ミシシッピアカミミガメ)は、生態系への被害的には特定外来生物指定要件を満たしているが、社会的混乱が懸念され指定が見送られてきました。社会的懸念とは、指定時に飼育個体の大量遺棄が懸念されることを指しています。

アメリカザリガニについては、除外したのはテクニカルな理由であって、被害はあるよ、と強調している点に注意しましょう。議論を「アメリカザリガニは悪くない!」から始めるのはナンセンスです。

ザリガニでも外猫問題でも、「人間自体外来種だ」「外来種ではない」とか、そういう雑な議論をされると、検討の経緯や法律や用語の定義を把握するほどの真剣さはないんだな、ということになってしまいます。

※今回指定候補から除外されたアメリカザリガニの取扱いについて

本会合において、我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト(生態系被害防止外来種リスト)において緊急対策外来種に選定されているアメリカザリガニについては、生態的影響(あるいは生態的特性)としては特定外来生物に指定する要件を満たしているものの、現行法下において指定した場合、飼育個体の大量遺棄が懸念されるなど、社会的な混乱を引き起こすことが懸念されるため、今回の指定は見送ることが適当とされた。

これを踏まえ、環境省としては、次期法改正に向けて対応方法を検討するとともに、当面の対応として、アメリカザリガニの生態系への影響と生息域の拡大防止について改めて知見の収集や普及啓発、各主体による取組への支援を強化していくこととする。

第 12 回特定外来生物等専門家会合議論の結果(2020)
外来ザリガニ
環境省のチラシより

専門家会議が出す提言の中身を読んでみる

専門家会議が出す提言の最終版はまだネットに上がっていませんが、「第4回外来生物対策のあり方検討会(2021/07/06)」の直近版で見てみましょう。
#本記事執筆後の2021/8/12に「外来生物対策の今後のあり方に関する提言」確定版が公開されましたが、提言案から特に変更はありません。

以下資料「外来生物対策の今後のあり方に関する提言(素案)」からの引用。

外来生物法の施行状況等を踏まえた今後講ずべき必要な措置の項目。ここだけ読んでも具体的なイメージ湧かないと思いますが、経緯を把握している人には、ここで言っている“侵略的外来種”がアカミミガメやアメリカザリガニであり、“規制の仕組みを検討”が法改正・新制度の話だとピンと来るはずです。

我が国の生態系等に大きな影響を及ぼしているにもかかわらず、飼養等を規制することによって、大量に遺棄されたり、非意図的な運搬規制により一部地域において経済活動に支障が出たりする等の深刻な弊害が想定される侵略的外来種については、弊害をできるだけ軽減させる形で、生態系等に係る被害の防止に資する規制の仕組みを検討する必要がある。

ついでに、ザリガニに触れている部分。まずは、課題について。

特定外来生物の指定については、被害や侵入に関する新たな状況の変化等に応じた、迅速な、あるいは定期的な指定作業を行うための情報収集や検討に関する体制が不十分な状況である。また、アカミミガメやアメリカザリガニのように、特定外来生物と同様に生態系等への被害が明らかになっているにも関わらず、大量に飼育されていることや、ツヤオオズアリのように国内の一部地域では定着しており、様々な経済活動に伴って非意図的な運搬が恒常的に発生すること等から、現行法では、飼養等(飼養、栽培、保管又は運搬をいう。同法第1条。以下同じ。)の禁止の対象となる特定外来生物への指定が難しい種が存在するという課題がある。

教育現場での課題について

特に小学校低学年において侵略的外来種であることへの認識なくアメリカザリガニ等が飼育されている事例が多いことを踏まえ、より早期からの教育との連携が必要である。

“弊害をできるだけ軽減させる形で、生態系等に係る被害の防止に資する規制の仕組み”とは、種の保存法「特定第二種」の外来生物法版のこと

特定外来生物にも種の保存法「特定第二種」的なカテゴリー分けを設けてはどうか、という話は、2020年から出ていた話です。「外来生物法施行状況評価検討会」は「外来生物対策のあり方検討会」の前に開催されていた会議で、施行後の評価→対策の提言→(法改正)と進んできているわけですね。その第1回会議で「次回の法改正の目玉は、特定外来生物のカテゴリー分けだろう」と書かれていてます。

第 1 回 外来生物法施行状況評価検討会 議事概」(2020/02)

カテゴリー分けのアイデアは、種の保存法を参考にしていることへの言及。

第3回 外来生物法施行状況評価検討会 議事概」(2020/10)

なお、「外来生物対策のあり方検討会第3回」議事録でも、次回法改正の目玉、と述べられています。

「外来生物対策のあり方検討会第3回」議事録(2021/06)

種の保存法の「特定第二種」については説明すると長くなるので、以下記事をご覧ください。ポイントは輸入・売買・譲渡・放流などは禁止されるものの、研究目的や種の保存目的、個人の飼育については規制対象外としていることです。

アメリカザリガニとミドリガメの規制は決定したのか?という話

決定したかで言えば、まだしていません。法改正して、会議何個かを経ることになるでしょう。しかし議事録や提言で何度も「アカミミガメやアメリカザリガニのように」と名指しされているので、これで指定しないならなんのために法改正したのか、ということになるでしょう。

ただし、同時に指定されるかはよくわかりません。アカミミガメについては2015に5年後までに段階的に規制する方針が打ち出され、予算がついて野外個体数の調査や防除方法の確立、啓蒙用資料の準備されるなど、準備が先行している印象があります。

また、メディアではザリガニ釣りで身近なザリガニメインで取り上げられやすいことも、話を見えづらくしています。話題性があるからザリガニメインで取り上げられているのだろうと思っていた所、最近は両種同時指定の線もあるのでは、と考えてます。それは、両種指定時のゴールが異なるからです。

防除して低密度化まである程度見えているアカミミガメと異なり、アメリカザリガニは一旦侵入すると根絶が難しい特徴があります。これについては、未侵入地域・未定着地域の防衛が現実的な目標であり、特定外来生物に指定することで対策や予算確保の根拠となることが期待されているようです。

「外来生物対策のあり方検討会第3回」議事録(2021/06)

報道各社の記事

会議資料や提言、議事録は環境省の外来生物法の施行状況の検討のページにアップされますが、数ヶ月遅れになります。とはいえ、具体的な議論や今後の日程感についても、具体的に出てきていますね。

「議論では、アメリカザリガニやミドリガメへの規制を求める意見が続出していた。(共同)」「来年の通常国会での同法改正案提出も視野に、具体案を中央環境審議会に諮問する。(毎日新聞)」

ところで、読売の8/7の記事は全然駄目。飼育禁止になると大量遺棄が起きるからそうならない規制にしよう、という話なのになぜこのタイトルになるのか?ベースは8/3の記事のようで、そちらは妥当なんですけどね。

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