コガタノゲンゴロウ(通称コガタノ)はナミゲンゴロウに似て一回り小さく、最近西日本で増えて注目されているゲンゴロウです。飼育経験にもとづくコガタノゲンゴロウの特徴、幼虫の孵化から羽化までの育て方のまとめ。
コガタノゲンゴロウを飼育した経験では飼育も繁殖も簡単、ただし混泳している他の生物を気まぐれに襲うアグレッシブな一面がある点、南方種で羽化や越冬に加温が必要な点は注意が必要です。
コガタノゲンゴロウの分類と学名
コガタノゲンゴロウは21-26mmの大型ゲンゴロウで、学名はCybister tripunctatus orientalis。
ゲンゴロウ科にはコガタノをはじめ大型種のナミゲンゴロウ、クロゲンゴロウ、マルコガタノゲンゴロウが属します。種としてはアジア・ アフリカ・ オセアニアにも広く分布しています。
コガタノゲンゴロウはだ円形の体型、緑がかった黒色に黄縁が入り背面からはナミゲンゴロウと似たカラーリング。
サイズ以外のナミゲンゴロウとコガタノゲンゴロウの簡単や見分け方として、ナミゲンの腹面が黄褐色なのに対しコガタノは黒褐色という違いがあります。
この写真のようにコガタノゲンゴロウの腹部は黒褐色なので、ひと目でゲンゴロウと区別できます。
なお、ナミゲンゴロウではオスの背中は光沢ありメスは縦にシワが入る違いがありますが、コガタノゲンゴロウは雌雄同じ光沢系です。
コガタノゲンゴロウ成虫の飼い方
コガタノゲンゴロウの基本的な飼育方法は、他のゲンゴロウと同じです。飼育容器に水道水を入れ、隠れ家などを用意し、甲羅干しできる場所を作ります。私の水槽では毎日誰かが甲羅干ししています。寄生虫や水カビ予防目的と言われています。
コガタノゲンゴロウの餌には、煮干しや肉食魚用のペレットを与えます。観賞魚用の植物性のペレットは一時しのぎには使えますが、肉食なので避けた方が良いでしょう。
また肉食と言っても、ハイエナのようなスカベンジャー(屍肉食)なので、メダカや金魚など生きた魚はなかなか食べないと思います。
魚や昆虫を弱らせあるいは殺して与えれば勝手に食べます。食べこぼしや食べ残しで水が汚れるので適宜水換えします。
餌の頻度は個体数と餌の量によりますが、毎日与える必要はありません。食べ残しの量を見て調整してください。
コガタノゲンゴロウの生息地と近年の分布拡大
コガタノゲンゴロウはかつて東北以南に生息しましたが、多くは各県で絶滅または絶滅危惧種となり、一時四国・九州・ 南西諸島まで生息地が後退していました。
ところが2000年以降、各県で個体数が増加すると共に、かつて絶滅した県でも再発見されるなど生息地が北上しつつあります。
例えば富山県では1950年代に絶滅し、2018年に近隣から再侵入したと評価されています。
富山県におけるコガタノゲンゴロウの再発見と既知記録総括|富山市科学博物館 Toyama Science Museum
コガタノゲンゴロウの越冬と繁殖温度
コガタノゲンゴロウは南方系のゲンゴロウで、低温下では死亡する資料があります。コガタノゲンゴロウは水中で越冬しますが、かつては東北以南に生息していて、一定数南方から飛来するにしても複数県移動する能力はないと思うので、水温が氷点下にならない越冬場所を見つけるのか、死亡率は上がるものの一部が生き残って繁殖するのか興味がある所です。
ただ、もともと南方系のゲンゴロウであるため、冬の寒さに耐えて、越冬できる個体がどれぐらいいるかは未知数である。鳥取県の越冬環境として水温が4℃を下回らないことを1つの目安に挙げているが(2005 國本)、あるいは、ウスバキトンボの様に毎年一定数のコガタノゲンゴロウが山口県内に飛来し、冬には大半の個体が死滅しているという可能性を否定できない。
コガタノゲンゴロウを主とした大型ゲンゴロウ類の動態把握と、生息環境整備の模索(最終報告)
また生息地の拡大については長崎大学の大庭先生の研究があり、ゲンゴロウとクロゲンゴロウの他2種と比べ、コガタノは高温下で成長が早まる特徴があり、温暖化で個体数が増加、飛翔して生息地拡大という納得できる理由が示されています。
コガタノは他の2種と比べ、①高温下で幼虫の生存率及び成長速度が早まること、②成虫は活発に飛翔すること、③地域間(本州から南西諸島)で遺伝的変異がほとんどないことが判明した。以上の結果から、近年の地球温暖化の影響でコガタノが増加し、成虫は高い移動分散能力を持つことから、過去に減少または絶滅した地域へ再定着していると考えられた。
種間比較に基づく大型ゲンゴロウ類の生体の解明と保存(大庭 25830152 研究成果報告書)
コガタノゲンゴロウは他のゲンゴロウよりアグレッシブ?
なおコガタノゲンゴロウは他の種より狂暴、という印象があります。他の種では魚や体格が異なるゲンゴロウ同士の混泳でもほとんど共食いしないし、健康な他種には興味を示しませんが、コガタノゲンゴロウは生きている生物を狩ることがあります。
私の経験ではヤマトヌマエビ、マルガタゲンゴロウ、グッピーなどがコガタノゲンゴロウの犠牲となりました。ナミゲンゴロウだけの時はヤマトヌマエビが半年以上同居していましたが、コガタノゲンゴロウを入れた所、20匹近いヤマトヌマエビが一ヶ月ほどで数匹まで減りました。
積極的に他の種を狩るほどではありませんが、希少種との混泳は避けたほうが良いでしょう。
他にも、ネットではコガタノ狂暴説をたびたび見かけます。前述の大庭先生の研究でも「行動観察を行った結果、コガタノが他2種と比べて最も活発に泳ぎ、餌も一番早く発見すること、摂食量が多いことが明らかとなった」としています。
コガタノゲンゴロウの成長過程
コガタノゲンゴロウの成虫は冬眠なく一年中見られますが、幼虫が出る時期は4月から7月頃です。3令まで成長した幼虫は土中で蛹となり、孵化から上陸まで幼虫期間25日、上陸から羽化まで約27日かかります。成虫になるまで、合わせて50日見ておけばよいでしょう。
2019年にメス2匹から生まれた幼虫30匹から成虫にいたったのは18匹です。生育ステージごとの平均日数は以下のとおり。2019年は全体に発生が遅く1匹目の孵化は7/19でした。コガタノゲンゴロウは孵化から羽化まで平均50日とされているので、平均60日近い2019年は低温で発育が遅れたと考えられます。
1令幼虫 | 2令幼虫 | 3令幼虫 | 蛹(蛹室内) | 幼虫期間 |
---|---|---|---|---|
7日間 | 10日間 | 13日間 | 33日間 | 30日間 |
温度に注意!コガタノゲンゴロウ幼虫飼育の特徴
コガタノゲンゴロウの繁殖はナミゲンゴロウと基本的に同じです。ただし、羽化には温度条件があり20数度以上でないと蛹化しません。このことは前述の大庭先生の研究でも示されています。
コガタノゲンゴロウの交尾
コガタノゲンゴロウは、オスメス一緒に飼っていれば勝手に交尾します。繁殖シーズン以外も交尾するので、交尾のために特別な準備は不要です。ゲンゴロウの交尾では、オスが吸盤付きの前脚でメスの背中に覆いかぶさります。
覆いかぶさってしばらくすると、オスが交尾器を出し合体します。覆いかぶさった時にメスが暴れて水音がしたりするので、何度も観察しています。
コガタノゲンゴロウ初齢幼虫の飼育方法
1匹目の幼虫出現を確認したら、朝夕水槽をチェックし、共食いしないようプラカップなどで個別飼育します。
孵化したり半日程度の幼虫は真っ白で、後に色づく。
https://www.youtube.com/watch?v=S6bi4W29VBw
餌には1日に5匹程度ミズムシ(ミズゲジ)を与え、一週間程度で2令幼虫に脱皮します。
コガタノゲンゴロウ2令幼虫の飼育方法
コガタノゲンゴロウ幼虫の2令からはイエコをメインに育てました。イエコにもサイズがありますがS〜Mサイズが適当です。ゲンゴロウ飼育において死亡率・コスパ・水の汚れなど餌の議論がありますが、イエコはある程度備蓄できてサイズが選べて水に浮かべておけば勝手に食べるのでありかなと思っています。手入れとしては朝と夜数匹ずつ入れて起床後と帰宅後に食べ残しを取り除きます。
ゲンゴロウ幼虫は0〜5匹ほどだらだらと孵化し続けるため、日付と個体番号を付けて成長過程を管理します。
数が多すぎるため予備水槽で複数飼育していた所、共食いしてしまったコガタノゲンゴロウ幼虫。
コガタノゲンゴロウ3令幼虫の飼育方法
3令幼虫ともなるとミズムシでは餌になりません。Mサイズ以上のイエコ、メダカ・アカヒレ・小型の小赤などが適しているでしょう。常に餌がある状態を維持します。
昆虫系の餌と比べ魚の食べ残しは水が汚れやすいので、頻繁な水換えが必要です。社会人の場合帰宅すると水の汚れで死んでいる頻度も上がります。心配なら帰宅後と寝る前の2回餌やりし、朝は与えないようにしましょう。
コガタノゲンゴロウが餌に興味を示す動画。動いているものに牙を開いて襲いかかります。
https://www.youtube.com/watch?v=l2DiKneIOpk
コガタノゲンゴロウ幼虫の上陸とタイミングの見極め
ゲンゴロウが蛹になる時、幼虫は陸に上がり地中に潜って蛹になります。飼育下では上陸タイミングを見計らいます。餌に興味を示さなくなる他、脚をかいて泳ぐ、縁に突っ込むように泳ぐのは明らかな上陸サイン。
https://www.youtube.com/watch?v=QNMdKfC-AJg
ピートモスを濡らして握って水が出ないくらいにしてプリンカップにつめます。上陸させたゲンゴロウ幼虫は自分で穴をほって潜り、蛹室を作って蛹になります。容器に陸地を作り自然に上陸させる方法もありますが、人間がタイミングを判断して上陸させる方法を「強制上陸」と呼びます。
飼育する幼虫の数次第ですが、プリンカップを使う方法と、100円ショップの容器を適当に区切る方法もあります。後者の方が場所をとりませんが、カビが蔓延するとその容器が全滅するリスクも勘案してください。
https://www.youtube.com/watch?v=2Nm_7h5UUn4
コガタノゲンゴロウの羽化
関東の夏にも関わらず、2019年のコガタノゲンゴロウはなかなか蛹化しませんでした。高温下において乾燥するのが怖かったので机の下の暗所に置いておいたら温度が足りなかったようです。蛹室を作る場所によっては中が見えるため、蛹になっていない状態でした。
そこで発泡スチロールに小型動物飼育用のヒートシーターを入れて22度程度に加温した所、次々蛹化しました。加温した組は上陸後最短20日と明らかに羽化が早まり、途中から加温した組は45日もかかった個体がありました。サイズには影響なし。
蛹や羽化を撮りたくて蛹室を暴きたくなりますが、羽化率が落ちるのでやめたほうが良いです。蛹が見える状態の羽化率は散々でした。
ゲンゴロウの蛹室。羽化予定日を大幅に過ぎ、死んでいると判断して取り出したもの。
羽化直後のコガタノゲンゴロウは純白。内部を覗けるなどで羽化確認できてから蛹室を開けた物。
羽化して数時間後のコガタノゲンゴロウは飴色に色づく。なめらかな蛹室の壁に注目。
完全に色づいたコガタノゲンゴロウ新成虫。キベリの最後端がかすれず矢じりのように膨らむ点はゲンゴロウとの違い。
コガタノゲンゴロウが販売されている場所や値段
コガタノゲンゴロウは、大型ゲンゴロウのなかでは珍しく近年数が増えていて、取れる場所では5匹10匹単位で取れるようです。そのため、ヤフオクなどでは10匹1000円など、クロゲンゴロウ並の値段で流通しています。