書籍『新種発見! 見つけて、調べて、名付ける方法』レビュー

書籍『新種発見! 見つけて、調べて、名付ける方法』

Twitterのバズリがきっかけとなって、新種発見にまつわる逸話をまとめた本が何冊か出ています。それだけインパクトが強かったのでしょう。書籍『新種発見! 見つけて、調べて、名付ける方法』は、山と渓谷社から2023年1月出版。Twitterではすぐ流れてしまい、またもっとくわしい話が聞けるので、こうして形になったのはありがたいことです。執筆者のお一人、渡部晃平さんにご恵贈いただきましたので、ご紹介します。

2022年、Twitterでバズったサザエ新種記載の話とハッシュタグ#新種発見のエピソード

軽妙なトークが人気で1万フォロワーに達した、軟体動物多様性学会公式アカウント @SocStudMollDiv。中の人が福田 宏先生であることはよく知られていますが、その福田 宏先生が2017年に新種記載したのがサザエ。

新種発見には、それだけでニュースバリューありますが、あの有名なサザエですら学名の混乱があり未記載種だったとは…。

この話に触発されてクモの専門家馬場 友希さんが作ったハッシュタグ#新種発見のエピソードも、興味深い話が満載でした。

我々素人にとっても、新種発見は夢の一つ。島野 智之先生が記載したダニのように、Twitterの写真がきっかけで発見にいたった事例もあり、本書にその経緯が載っています。

本書に記載されているエピソード

見た方が早いので、まずは目次から。なんとなく覚えているであろうあの話やこの話が入っているのではないでしょうか。

  • 新種発見ってなんだ?
  • 学名と和名 / 記載論文徹底解剖 / 新種記載までの道のり
  • chapter 1 陸地で発見!
    • 新種との出会いは突然に ババハシリグモ
    • 南の島で見つけた宝石 ベニエリルリゴキブリ
    • アパートの駐車場にいた最強生物 ショウナイチョウメイムシ
    • 光合成も開花もやめた植物 タケシマヤツシロラン
    • 冬虫夏草少年の直感 クサイロコメツキムシタケ
    • さえずりとDNAの違いが導いた発見 コムシクイ・オオムシクイ・メボソムシクイ
  • chapter 2 水辺で発見!
    • 4歳児が発見!? ごま粒大の新種 チゴケスベヨコエビ
    • 魚を採ったらくっついていた! オシリカジリムシ
    • 子どもの頃に抱いた“違和感” オオヨツハモガニ
    • 海を越えた連携プレー カクレマンボウ
    • 幻の新種となった深海魚 エピゴヌス・オカモトイ
    • “ドジョウの泥沼”に踏み込む シノビドジョウ
  • chapter 3 こんなところで発見!?
    • 60年越しののバトン ムルティフィスウーリトゥス・シモノセキエンシス
    • 後輩に手渡されたエレガントな化石 エゾセラス・エレガンス
    • 大掃除中、標本箱から発見!  ニセコウベツブ・ヒラサワツブゲンゴロウ
    • 「Twitter」という学名を持つダニ チョウシハマベダニ・イワドハマベダニ
    • 憧れのカイガラムシはTwitterにいた アイヌホソカタカイガラムシ
    • 博物館での出会いがきっかけに ダイダイマダラウミヘビ
    • 映画のセリフに隠れていた真実 サザエ

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山と渓谷社
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紙の本もいいよね!書籍で買うべき理由

新種を発見してみたい!と思った童心に帰りました。小さい頃に夢見ても、そのまま忘れてしまった方も多いはず。本書を読むと、その頃の想いが新鮮に蘇るとともに、大人になった今なら、現実的なアプローチが取れるかもしれません。

通常どういうプロセスで新種記載にいたるのか。新種だ!と確信・証明するに至った様々な事例の紹介を読むと、まだまだ未記載種も多く、日常のなかにも発見の機会が潜んでいることがわかります。

調査が進んでいない離島に行くとか、大人の経済力で解決する手段もある一方、各執筆者から繰り返し述べられているように、まずはアンテナを張っていることが大事でしょう。

というわけで紙の本で買うべき理由。

  • Twitterよりくわしい。各種10ページくらい割かれている
  • 色々忘れてた。改めてまとまっていると嬉しい
  • 装丁がきれい。プロの仕事

Twitterよりくわしい。各種10ページくらい割かれている

Twitterではスレッドがあるにしろ、やはり書籍のほうが各エピソードくわしく語られています。Twitterは予備知識や文脈が必要な話は省かれがち。各種10ページ近く割かれているので、どの話目当てでも十分な情報が得られるでしょう。

色々忘れてた。改めてまとまっていると嬉しい

それなりにタイムライン追ってたつもりですが、見落とした話や忘れてた話がありました。Twitterって後から探そうとするとなかなか難しい構造もありますし、こうして書籍としてまとまっているのは便利!あれヒットしないな別のキーワードで試してみようみたいなムダとはおさらばです。

装丁がきれい。プロの仕事

表紙に掲載された各種イラスト含め、各掲載種のイラストが新たに起こされています。統一感出すためにはそうなるにしろ、プロによる生物イラスト見るのは眼福。

さらに、そのイラストの使い方が上手。各エピソード冒頭や小口に配置し、色数抑えつつポイント使いされたカラー印刷も控えめながらリズムと統一感を生み出しています。蛍光の黄色とかオレンジとか扱い難しい色だと思うのですが、上品にまとまっています。

人類が知らないことはまだまだ多い

以下の記事で触れたように、長年単一種と思われていたなかに複数種含まれていた例は、よくあります。サザエやキリギリスのように有名種でもあるわけですから、マイナー種では知らないうちに絶滅した生き物も多いことでしょう。

種を記載して別種である、独立種であると分類することは、その生き物の研究を進める第一歩。キリギリスは大まかに東西で分かれましたが、生息地・個体数がいきなり半減したわけで、の保全上も重要です。

新種として分類されたとしても、生態や生活史がわかっていない種もザラ。生物多様性を構成する要素は生態系・種・遺伝子という3つの多様性ですが、予防原則として生態系を保全しておくことが、回り回って持続可能な漁業などに貢献する所以です。

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