タガメにも天敵はいる?幼虫時代は捕食される側!

タガメ2令幼虫

成長すれば日本最大の水生昆虫となるですが、沢山産んでも成虫になれるのはごく一部で、多くの天敵がいます。野生におけるタガメの天敵と、人間がもたらした天敵について説明します。

【特集】タガメの方法

日本最大の水生昆虫タガメ。タガメの飼育方法や餌、交尾からの育て方まで、タガメの飼育・繁殖方法についてはこちらの特集もご覧ください。

タガメの天敵は水鳥・外来生物・水生昆虫

タガメの天敵としてざっくり水鳥・外来生物・水生昆虫を挙げましたが、成虫で7cm弱に達するタガメも無敵の存在ではありません。実際に観察されている例として、サギなどの水鳥、ウシガエルなどの外来生物、幼虫ではタイコウチなどの水生昆虫に捕獲されている例が見つかっています。

水辺で小魚やエビ、昆虫などを捕らえるサギ類は、タガメの天敵。各種水生昆虫飼育について書かれた「水生昆虫完全飼育・繁殖マニュアル」によれば「生息地の観察では、3令から4令が多く生息する掘り上げに多数のサギが群がり、たった一日で幼虫の姿が見られなくなったこともあった。」としています。

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タガメの保護活動で知られる市川憲平さんの書籍「タガメ (田んぼの生きものたち)」によれば、ゴイサギの胃の中から26匹のが出てきた事例、秋田県で行われた調査でブラックバスの胃からやオオコオイムシ・などが出てきた事例、ウシガエルのお腹からまるごと成虫が出てきた事例などが紹介されています。タガメも若齢幼虫ではコオイムシサイズですから、当然食べられていることになるでしょう。

ウシガエルがタガメを丸呑みした事例は写真付きですが、こちらで報告されたものと同一かと思います。

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タガメ研究で知られる大庭伸也さんの調査によれば、「1齢幼虫の時にタイコウチに最もよく捕食されていた」S. Ohba: Hydrobiologia, 583, 377 (2007).としていて、市川憲平さんが関わっている姫路の保護活動でも「増えすぎたタイコウチによるタガメ幼虫の捕食」対策などの言及があり、生息環境がかぶるタイコウチは、タガメ幼虫の天敵のひとつと言えるでしょう。

タガメは1卵塊で50-70匹が孵化するなど大量のを産みますが、成虫となるのはその一部です。タガメを実際に飼育してみると、卵から孵化して数日で早くも2令に脱皮する、1回の脱皮で体長が145%大きくなるなど、早く大きくなろうという貪欲さを感じます。

農薬・街灯・の影響も大きい

タガメは1950年代までは市街地近辺でも普通に見られる種でしたが、1980年には各地で地域絶滅が報告されるなど、急速に姿を消しました。自然の生態系に組み込まれている天敵に対し、減少要因としては人間の活動または人間によって持ち込まれた侵略的外来種の方が大きいと言えるでしょう。

タガメが数十年で一気に減少した要因は、稲作で農薬が使われだしたことです。太平洋戦争後、極端な食糧不足に陥った日本では、食糧増産が大きな課題となっていました。

有名な農薬DDTやBHCは1947年から国内生産開始、1958年にBHCが月産2000t規模で生産されるなど、急速に普及しました。
参考)植物防疫第68巻(2014)「農薬のルーツと歴史,過去・現在・未来」

BHCは有機塩素系殺虫剤に分類され、神経系に作用し稲作の害虫ウンカに効くことから広く使われましたが、長期間食品や環境中に残留する性質が問題となり、現在は使用禁止または厳重な使用制限を受けています。

このほか、繁殖期に盛んに移動する性質と光に集まる性質が合わさって、街灯に集まって死んでしまう例、をなくし餌となる生物がいない環境を作ってしまう侵略的外来種ザリガニなども、タガメの減少要因となっています。

農薬に弱いタガメ

全国で数を減らしたタガメですが、現在は山間部や丘陵地、上流のため池などに生息している状況で、平野部や下流部ではほとんど見られなくなっています。これは、タガメが特に農薬に弱く、農薬が流れ込む可能性がある場所には住めない特性が関係しています。

たとえば、環境省のRDBでも「タガメは農薬などの汚染にとても敏感で、非常に微量の濃度でも成長を阻害されるか、死んでしまいます。」としています。

タガメが農薬に弱いことを示した研究としては昆野安彦 (2000) 「東北における水田の水生昆虫類の現状(昆虫と自撚 Vol.35, 2000年8月号)」が有名ですが、手元にないのでほかの研究で見ていきます。

国立環境研究所「タガメの農薬類感受性と絶滅危機の原因に関して(昆野, 1995)」(pp.19-20)によれば、タガメの半数致死濃度はBHCで0.07μg/l、DDTで3.4μg/l、果樹園などで使われたカルボスルファンで1ug/lと、特にBHCで極端に低い値を示しました。μg=マイクログラムはmgの1/1000の単位。

また同報告によれば、各殺虫剤1mg/lの溶液に1時間ほど暴露した1匹のグッピーの体液を吸っただけでタガメの1令幼虫が死亡するなど、農薬の2次的な摂取に弱いことがわかっています。

同じく「水生昆虫および水生生物に対する農薬影響研究の現状(昆野, 2001)」によれば、オオコオイムシやタガメの場合、現在も使われているピレスロイド系農薬で1ug/l前後と、特に弱いとしています。

「水生昆虫および水生生物に対する農薬影響研究の現状(昆野, 2001)」

一般に水生昆虫類の農薬に対するLC50(半数致死濃度)は100ug/l以下(昆野, 2001)である所、タガメはBHCで0.07μg/l、ピレスロイド系で1ug/l前後ですので、RDBにあるとおりタガメは特に農薬に弱い、と言えそうです。

このように、タガメは直接暴露した場合も、暴露した餌を摂取した場合も死んでしまうので、農薬の影響が少ない場所でないと生き残れない状況になっているのです。

近年西日本で広がるウンカの被害

戦後使われたBHCは、人体への被害が懸念され1971年に販売禁止されたほど農薬ですが、トビイロウンカの被害例などを見ると、当時は画期的だったことがわかります。

近年、ジェット気流に乗り中国などから飛来するウンカによる稲作被害が西日本中心に増大し、2020年は坪枯れや全面駄目になるなど、大きな被害を与えています。江戸時代はたびたび飢饉に襲われていますが、農薬がない時代はなすすべがなかっただろうと思います。

トビイロウンカは中国などから飛来し、茎から水分や養分を吸って稲を弱らせる。出穂期から登熟期にかけて、稲が数十株から数百株まとまって倒伏する「坪枯れ」を生じさせる。

日本農業新聞 – トビイロウンカ猛威 警報10年で最多 西日本の広範 稲刈り早めに
ウンカによる坪枯れ被害

タガメの天敵に関するまとめ

日本最大の水生昆虫タガメにも、多くの天敵がいます。成虫であってもサギやウシガエルに食べられてしまいます。また、タガメの幼虫はかよわい存在で、タイコウチとは競合関係にあります。共にオタマジャクシを餌としつつ、タガメの若齢の幼虫は捕らえられてしまう天敵です。

自然の生態関係に組み込まれている天敵に対し、タガメが大きく数を減らした原因は、稲作で普及した農薬にあります。タガメは特に農薬に敏感な特性を持ち、平野部ではほとんど見られなくなってしまいました。

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