ヤフオク流通が原因で20数種保護種入りしたサンショウウオ。年々流通量が増加し上位3人がその過半数を占めている件

ヤフオク希少種流通のほとんどを上位数人が占めている問題

サンショウウオ20数種が2022年1月、一気に保護種入りしました。ヤフオク流通を規制する特定第二種指定が多いことが特徴です。取引データを精査した結果、サンショウウオの2021年ヤフオク取引は、上位3人だけで過半数を占めることがわかりました。

特定第二種指定されたカワシンジュガイや、準絶滅危惧種のオオムラサキでも、特定個人がヤフオク取引の80%以上を占める現状があります。こうした出品者は規制されれば別の種に移っていくだけです。

ヤフオク流通が原因で数十種も保護種入りし、今後もそれが増えていくであろう現状。この不名誉な事態をヤフー社の経営陣がどこまで把握しているかは定かでありません。今はメディアや環境省も「ネットオークションでの取引」とマイルドに表現していますが、いずれヤフー社の責任である、という批判が出てくることでしょう。

忙しい方向けのサマリ

サンショウウオのヤフオク取引データを集計・分析した結果、生体・嚢とも年々流通量が増えています。

サンショウウオのヤフオク流通量推移(2019-2021)

ヤフオクのサンショウウオ流通は生体で60%、卵嚢で75%を上位3人で占めています。毎年上位を占めるmanaslu19氏を中心に、上位陣が入れ替わりつつ、年々流通量を増やしています。ちなみに、買う方も買う方で、サンショウウオは難度が高い種ですから、毎年流通する大量の卵嚢・生体は消費的に扱われているものと考えられます。

サンショウウオのヤフオク生体・卵嚢流通(2021)

サンショウウオに限らず、ヤフオクの希少種流通では、上位数人がほとんどを占める例がみられます。特定第二種に指定されたサンショウウオとカワシンジュガイ、準絶滅危惧種であるものの絶滅危惧種並の減少速度をみせているオオムラサキでもそうです。

1年あたりの減少率をみると、絶滅危惧1A類の基準の一つである15%以上を示した種は、ミヤマカラスアゲハ(減少率31・4%)を筆頭にオオムラサキ(同16・1%)など6種。

里山のチョウ、4割「絶滅危惧」 年30%ずつ減る種も:朝日新聞デジタル
ヤフオク希少種流通のほとんどを上位数人が占めている問題

2022年に小型サンショウウオ26種が「国内希少野生動植物種」「特定第二種」に指定された

では本編に入ります。2021年末に希少種を保護する「種の保存法」対象種が発表され、2022年1月24日から新たに32種が保護種入りしました。小型サンショウウオで追加された26種中23種が「特定第二種」指定になっていることが特徴です。ハクバサンショウウオ・アカイシサンショウウオ・ツルギサンショウウオはより規制が厳しい「国内希少野生動植物種」指定になっています。

環境省の資料で示されているように、小型サンショウウオ類やカワシンジュガイ・コガタカワシンジュガイは、開発等に加え、ネットオークションでの流通が減少要因に挙げられています。大手のうちメルカリは動物生体を扱わないので、ネットオークションとは実質ヤフオクのことです。

小型サンショウウオ類の指定について(環境省

環境省の資料では、年々ヤフオク流通量が増えていることを指摘するにとどまっていますが、本記事ではカワシンジュガイ同様、サンショウウオにおいても上位数人が取引の大半を占めていることを取引データから明らかにします。

「特定第二種」制度の概要や禁止される行為については、以下の記事で説明しています。水生昆虫関係では2020年にが特定第二種になっています。

両生類が産卵期の乱獲に弱い理由

今年もカエルやサンショウウオの産卵シーズンが始まりましたね。そうすると毎年話題になるのが、ヤフオクでの流通です。産卵期に池に集まった生体や卵嚢(らんのう)・卵塊は、乱獲の格好の的になってしまいます。※サンショウウオでは卵嚢、カエルでは卵塊という用語が使われる

毎年大量の卵嚢・卵塊がヤフオクに出品されている

両生類は大人になるのに数年かかり、また年一回しか産卵しない種もいるため、産卵期の乱獲は個体群へのダメージが大きいと言われています。有尾社から良いポスター出ているのでご覧ください。このポスターは改変を加えない限り配布や掲示等に自由に使えます。

両生類の乱獲・乱売防止を訴えるポスター(有尾社

サンショウウオのヤフオク流通の特徴と分析方法

ヤフオク流通の古いデータは見られなくなってしまいますが、サードパーティのaucfanが過去十年分保有していて、課金するとCSVデータでダウンロードできるので、これを解析します。集計・分析手法についてはカワシンジュガイ記事の方を見てください。

ネットオークションの流通に注目した論文は複数出ていて、準備中のものもあるように聞いています。サンショウウオ関係では石川県立大学が生態学会で口頭発表した内容が、取引に占める上位陣の影響にも踏み込んだ内容になっています。

環境省の集計基準との違い

環境省ではおそらく複数種を計測する関係で、種固有の事情や曖昧さを回避する集計基準を採用しています。例えば、卵嚢は個体数が特定できないので対象外にしたり、タイトルに個体数が含まれないものは1個体扱いにしたりしています。その結果、環境省集計は実際の販売個体数の半分以下になっています。

  • 環境省集計では卵嚢は除外しているが、卵嚢もカウントする。
  • 環境省集計ではタイトルから個体数がわかるものに限定しているが、画像や説明文も精査して個体数を精査する。
  • 環境省集計ではタイトルから個体数が特定できない場合1個体にしているが、上記の通り個体数を精査する。
  • 環境省集計では1出品1取引としているが、複数セット販売された場合は複数回としてカウントする。
  • 例)10個体x9セット落札数5件なら実販売個体数50個体とする

※環境省集計では1出品1取引カウントにしている旨、同省より回答あり

サンショウウオのヤフオク流通の特徴

サンショウウオを販売するほど捕獲するには、繁殖期に産卵池に集まる生体や卵嚢を集めるのが効率的です。そのためヤフオクでもその取引は繁殖期に集中しています。

サンショウウオの卵嚢は1対で1つですが、ヤフオクでは半対でも売られるため、半対を1個として数えています。また、幼生を別集計にするか問題について。1つの卵嚢からは数十の幼生が生まれます。孵化した幼生数十匹が出品された場合、販売個体数が膨らみますが、今回は幼体と成体を区別していません。

サンショウウオのヤフオク2021年流通を分析した結果

サンショウウオのヤフオク2021年流通について、直近数年の推移・生体・卵嚢取引内訳の3点について見ていきます。

サンショウウオのヤフオク流通は直近3年間、年々増えている

2020年にトウキョウサンショウウオが特定第二種になり、2022年に20数種が一気に保護種入りという経緯ですが、2019年以降生体・卵嚢とも年々流通量が増えています。

後述しますが、サンショウウオを大量出品している人たちは、富山・宮城・長崎などトウキョウサンショウウオ生息域から離れた所に住んでいるため、規制の影響が少なかったと考えられます。

サンショウウオのヤフオク流通2019−2021
サンショウウオのヤフオク流通2019−2021

サンショウウオの生体・卵嚢取引(2021)

次に、サンショウウオ生体・卵嚢流通それぞれの内訳を見てみましょう。ヤフオクのサンショウウオ出品者は毎年50-70人ほどいますが、上位数人が大半を占めることがわかっています。

生体・卵嚢とも、富山のmanaslu19氏が毎年2-3割と1-2位どちらかを占めています。manaslu19氏は、複数県にまたがる広い行動範囲と専門知識を持ち、”青い背景のあの人”と言えば通じる有名人です。生体側のpoppo126氏は宮城の人で、孵化直後の幼生を大量出品するスタイルで、販売個体数が増えています。

卵嚢側のkana1632氏は長崎の人で、2020・2021と卵嚢を大量出品しています。2020は生体側も販売数2位でしたが2021は1個体のみで、出品スタイルを変えたようです。

※つまり、宮城と長崎でサンショウウオが急減したエリアがあればその原因となっている

まとめると、ヤフオクのサンショウウオ流通は生体で60%、卵嚢で75%を上位3人で占めています。毎年上位を占めるmanaslu19氏を中心に、上位陣が入れ替わりつつ、年々流通量を増やしています。ネットオークションの取引が年々増加傾向であることは既存研究の傾向とも一致します。

kana1632氏やpoppo126氏のように、最初は少数の出品だった人が翌年から一気に販売数上位になるパターンが見られます。繁殖期のサンショウウオは乱獲しやすく、小遣い稼ぎだと気づかれると狙われてしまうのでしょう。

サンショウウオのヤフオク生体・卵嚢流通(2021)
サンショウウオのヤフオク生体・卵嚢流通(2021)

ヤフオクというプラットフォームが希少種の大量販売を可能にし、数人の乱獲で保護種が増えていく問題

さて、ここからは別の話をしましょう。サンショウウオ数十種をはじめ、近年ヤフオクでの流通を規制するため、特定第二種入りする種が増えています。

規制前の販売個体数の40%を一人が占めていたタガメの事例や一人が80%以上売っていたカワシンジュガイなどもネットオークション売買が指定理由になっています。さらに、準絶滅危惧種のオオムラサキでもたった一人が87%を販売していることがわかっています。サンショウウオでは、未規制種の採集圧が高まることを防ぐために一気に複数種指定したものと考えられます。

「ネットオークションでの取引」が原因で規制された種は、実際には大量販売可能なヤフオクというプラットフォームを活用する数人の影響だったわけです。この不名誉な事態をヤフー社の経営陣がどこまで把握しているかは定かでありませんが、いずれ放置しているヤフー社の責任だ、という話になっていくものと思います。

ヤフオク各種において上位数人が販売個体数に占める割合を再掲します。

ヤフオク希少種流通のほとんどを上位数人が占めている問題

規制種を増やすのは国の方針であり、ヤフオク流通が原因となる種が今後100種以上になっていく可能性も十分ある件

2030年までに国内希少野生動植物種として700種指定するという国会の付帯決議が出ていることをご存知でしょうか。絶滅危惧種の数に対して保護種が少なすぎるのではないか、という指摘に基づくものです。過去の指定数は概ねこの目標をクリアするペースになっていて、今後は年30種を目安に指定していく方針が出ています。

環境省資料より

ところで、国内希少野生動植物種では、捕獲時点で即逮捕もあり得る大変厳しい規制が課されます。国内希少野生動植物種を大量に指定していくと、農家の作業に支障が出たり、子どもがすぐ犯罪者になってしまう影響も考えられます。

これに対し、2019年度から指定がはじまった「特定第二種(正式には特定第二種国内希少野生動植物種)」は、輸入や売買は禁止されるが、販売目的でなければ捕獲や飼育を規制しない新制度です。現状、よく考えられた使い勝手がよい制度として評価されています。

特定第二種は2020年にタガメ、トウキョウサンショウウオ、カワバタモロコの3種から指定が始まりましたが、2021年は指定なし、2022年にサンショウウオを含む20数種を指定となっています。これは、新制度ということで効果が出るのを検証していたもので、今後は20種近いペースで毎年指定されていくものと予想されています。

つまり、ヤフオクが少数個人の乱獲を放置していると、ヤフオク流通が原因で規制種入りする種があっという間に100種以上になるということです。特定第二種は指定にあたってのハードルが低いため、乱獲者がターゲットを移していくことを予防するため、類似種まとめて指定といった使い方が可能です。今回サンショウウオ20数種がまとめて指定されたことは、その一例に過ぎません。

少数個人の乱獲といっても、私の推計では一人の売上は年200万円強に過ぎません。個人の小遣い稼ぎのために、種の保存はもちろん、SDGsを掲げるヤフー社の社会的評価が下がる悪影響や、国の対応コストを考えると甚大な被害が出ています。ヤフー社としては、国の絶滅危惧種以上は出品禁止にするなど、運用が低コストな対処方法もあろうと思います。

3 COMMENTS

A谷

私はトウキョウサンショウウオの保全(産卵場の整備など)を主に行ってます。
トウキョウが特定第二種に指定された前後のインターネットオークションでの効果を見たいとこの記事を読んで思いました。
ヤフオクでの過去の取引や出品データはどうやって収集するのでしょうか?
急に質問をしてしまってすみません。
お答えできる範囲で構いません。

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gengo6.com gengo6com

トウキョウサンショウウオをタイトルに含む取引は2019年の1割程度でしたので、規制されて減った分は全体の伸びで相殺されたものと認識しています。

まず、トウキョウサンショウウオについてはそのものズバリな論文が出ています。

CiNii 論文 –  インターネットオークションによるトウキョウサンショウウオの販売実態と特定第二種国内希少野生動植物種指定の効果
https://ci.nii.ac.jp/naid/40022606973/

それから、ヤフオクの取引データを使った分析方法についてはこちらが詳しいので参考にしてみてください。

ネットオークションによる絶滅危惧魚類の取引状況と取引特性の類型化
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hozen/advpub/0/advpub_2109/_pdf

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A谷

丁寧なご説明ありがとうございます。
添付していただいた論文見させていただきました。

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